平壌産院、平壌こども病院、金萬有(キム・マニュ)病院などなど、北朝鮮の首都平壌には、最先端の設備を備えた大規模病院が複数ある。
いずれも無料で診察、治療を受けられることになっているが、実際は多額のワイロを必要とする。だが、ワイロを使っても治療を受けられない人々がいる。平壌以外に住む地方の人々だ。以前は地方から平壌の病院に通院できたのだが、最近はできなくなったようだ。その辺の事情を慈江道(チャガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えている。
(参考記事:北朝鮮「産婦人科の総本山」で相次ぐ死…背景に医療の闇)
慈江道の和坪(ファピョン)に住む50代の女性のチェさんは今年6月、新型コロナウイルスの症状を見せた後、腹部が膨満したり、痩せたりするなどの後遺症に悩まされてきた。和坪郡病院、道内で一番大きい江界(カンゲ)市病院を訪れたが、正確な診断が受けられず、個人の開業医を訪ねたものの、そこでも何もわからなかった。
業を煮やした彼女はムダン(巫堂、シャーマン)のお祓いを受けるなど、ありとあらゆる手を尽くしたが、それでも病状は好転しなかった。そこで、最終手段として、平壌にある病院に行こうと、旅行証(国内用パスポート)を申請した。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面平壌と国境沿いの地域に行くときは、手続きに時間がかかるものだが、数カ月経っても「もうちょっと待て」と言われるばかりで、一向に発行される気配がなく、チェさんは後遺症に苦しみ続けている。
江界に住むキムさんは、乳がんの治療のために、今年8月に平壌に行くための旅行証を申請したが、11月になっても何の知らせもないという。彼女は「もう死ぬしかない、平壌に行ったからと不治の病が治るのか」と嘆いている。
病気の治療のために平壌に行きたいと申請したのに、旅行証がいっさい発行されないことについて、情報筋は「理解できない」「地方住民は人間扱いされないのか」と現地から不満の声が上がっていると伝えた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面金持ちのトンジュ(金主、ニューリッチ)や幹部でなければ、平壌の病院で治療も受けさせてもらえないという現状。金正恩氏は、開発が平壌に偏っているという世論を意識してか地方にも力を入れるようになっているが、結局「地方差別」はなくなっていないということだ。
今回、旅行証が発行されない理由は明らかになっていないが、北朝鮮は政治的な行事が開かれる場合や、コロナのような感染症が流行した場合などに、平壌への入域を禁止する措置を取る。最高指導者の安全が脅かされかねないというのがその理由だ。
金正恩総書記が、自らの威信をかけて建設に取り掛かった平壌総合病院も、資材不足などで工事が中断している。このままでは、たとえ開院にこぎつけたとしても、地方の人にとっては「絵に描いた餅」になり、「自分たちは差別されている」という被害者意識がさらに強くなる結果を生むだろう。
(参考記事:軍人ら20人が犠牲…金正恩が執着「魔の病院」で死屍累々)