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朝鮮半島では晩秋から初冬にかけて、冬の間に食べるキムチを一家総出で漬ける習慣がある。これを「キムジャン」という。

1970年代までの韓国では5人家族の場合、80から100株の白菜キムチを漬けていたが、農林畜産食品省の昨年の調査では、4人家族で22.1株にまで減少した。また、食品会社のテサンが2020年に行った調査によると、そもそもキムジャンを行わないという回答も56.2%に達した。

皆が貧しく、冬の間のビタミン供給源をキムチに頼るしかなかった時代の韓国とは異なり、先進国となった今では、季節を問わず様々な野菜や果物が出回り、食文化そのものが変容しつつあるのだ。

一方の北朝鮮でも、キムジャンでキムチを漬ける量は減りつつある。豊かになったからではない。むしろ貧しくなったからだ。野菜の供給が減る中で、キムジャンの季節を迎えた北朝鮮では、野菜泥棒がはびこっている。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

道内の普天(ポチョン)郡門岩里(ムナムリ)の協同農場の野菜作業班で今月4日の夜、積んであったキャベツと山菜が盗まれる事件が起きた。翌朝、通報を受けて出動した安全部(警察署)は、車輪の痕跡をもとに捜査を進め、邑(郡の中心地)所在の企業所の複数の従業員の犯行であることを突き止め、逮捕した。盗まれたキャベツと山菜は、既に塩漬けにされていたという。

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北朝鮮の中でも特に貧しい両江道では、毎年この季節になると野菜泥棒が頻発していた。今年は相次ぐ自然災害やコロナ鎖国による肥料不足などの原因で、例年にもまして野菜が不作で、協同農場や個人宅の畑から野菜が盗まれる事件が多発している。

(参考記事:「今年のキムチは諦めた」深刻な野菜不足の北朝鮮

道内の三水(サムス)郡では、こんな事件も起きている。

邑にある協同農場の野菜作業班では、今月中旬に収穫した白菜5〜7トンや大根が盗まれないように、農場の入り口に人糞を撒き、兵士2人が軍で必要となる白菜を受け取る作業を兼ねて、夜間警備を行っていた。

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ところが、この2人があろうことか白菜を盗み出し、市場で安値で売り払い、得たカネで酒や菓子、パンを買っていたのだ。ところが、商人の間で「兵士が白菜を横流ししてくれる」との噂が広まり、急いで買い付けに行ったものの、全員には行き渡らなかった。白菜を手に入れられなかった商人が逆恨みして、軍の後方部(補給担当部署)に通報、2人は逮捕された。

後方部は商人から白菜を回収しようとしたが、一部は既に塩漬けされ、一部は既に売れた後だった。また、2人から何株買い取ったのか、商人の陳述が一致せず、損害の全容がわからない事態となった。

逮捕された兵士2人は、軍検察所の営倉(牢屋)に入れられ、「軍の後方物資に手を付けた深刻な問題」として安全部で捜査を行うことになった。軍向け食糧の横流しは、農場から軍部隊への輸送過程で当たり前のように起きているが、2人は事件をもみ消すだけのコネを持っていなかったのだろう。

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(参考記事:北朝鮮の軍中枢でも「飢え」広がる…ミサイル発射は「強がり」

両江道の西隣、慈江道(チャガンド)では、防犯装置による事故も起きている。

道内の渭原(ウィウォン)郡の各民家は、前庭に作った畑の作物を盗まれないように、生け垣に電線を張り巡らし、触れば警報ベルが鳴って感電する仕掛けを設置していたが、21日に11歳の子どもが誤って接触、感電する事故が発生した。子どもの容態は不明だ。

安全部は、電線を外すように人民班(町内会)に指示を下したが、住民からは「この季節になれば毎年やっていることだ、豚小屋にも電線を設置しているのに」と不満の声が上がり、盗まれまいとさっさと収穫した人もいたという。

金正恩総書記は、最近完成した大規模野菜農場の連浦(リョンポ)温室農場の竣工式に出席し、民生に力を入れていることをアピールしたが、栽培された野菜が上述の地域に供給されることはなく、農場、住民と泥棒のイタチごっこが続いている。

(参考記事:金正恩、ミサイル乱射の裏で「冬を越す食糧がない」