人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

高麗時代だった1145年に書かれた歴史書「三国史記」によると、朝鮮半島に茶が伝わったのは新羅時代の7世紀、栽培が始まったのは9世紀だ。その後、広く飲まれるようになり、朝鮮王朝時代(1392年〜1897年)には、茶文化の中心だった仏教が排除されたことで、茶文化が衰退したが、中国式の発酵茶は飲まれ続けていた。

日本の植民地支配が始まった直後の1911年、全羅南道(チョルラナムド)の光州(クァンジュ)に日本人が経営する茶園ができ、不発酵茶の日本茶が飲まれるようになった。その関係で、韓国で現在栽培されている茶の85%はやぶきた種だ。

植民地支配からの解放後、茶園は韓国人に受け継がれ、九州の製茶工場で働いていたキム・ボクスンという女性が、夫と共に製茶業を続けていた。再び緑茶が一般化したのは1990年代以降だが、日本の製茶技術を影響を受けつつも、韓国人の舌に合わせた渋みの少ないお茶が好まれている。

一方の北朝鮮だが、気候の関係で茶栽培ができなかった。しかし、金日成主席が1982年、中国の山東省を訪問、「平壌と緯度が同じ山東省で茶栽培が盛んなのに、なぜ共和国(北朝鮮)では茶栽培ができないのか。われわれも茶栽培を試してみよ」と指示を下したことをきっかけに研究開発が始まり、2008年にようやく栽培に成功した。

韓国に程近い黄海南道(ファンヘナムド)の康翎(カンリョン)郡で、氷点下19度の寒さにも耐えるこの品種は、「恩情茶」と名付けられ、「万病に効く長生きのお茶」との触れ込みで売り出された。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

ただ、食うや食わずの一般庶民にとっては高嶺の花だ。そんな緑茶が「コロナに効く」として、子どもたちに飲ませよとの指示が下された。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、咸興(ハムン)市教育部は10日、市内の小学校、初・高級中学校(中学、高校)の校長を集めて会議を開いた。

教育部長は、全世界的に新型コロナウイルスの変異株による死者が増えているとして、免疫力の向上、風邪の予防に良い緑茶を飲ませるのは、朝鮮労働党の思想であり、意図であるとし、各校で緑茶を調達し、20日から隔日で児童・生徒に無条件で飲ませよとの指示を下した。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

会議を主導したある幹部は「わが国(北朝鮮)の児童・生徒に緑茶を供給し、健康な姿を見せれば、元帥様(金正恩総書記)がどれほどお喜びになるだろうか」「児童・生徒に緑茶を供給し、皆が健康に育っているとの報告を一日も早く届け、全国人民の生活向上のために昼夜を分かたず努力されている元帥様に喜びを届けよう」と述べた。

北朝鮮では、緑茶を飲むことすらも金氏一家と結び付けられるのだ。それは、国営の朝鮮中央通信が昨年2月に配信した「新しく建設された茶飲料生産拠点 恩情茶飲料工場が竣工」という記事にも現れている。以下、一部抜粋する。

恩情茶には、わが人民のために気遣った不世出の偉人たちの温かい愛の世界が宿っている。

人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

金日成主席は、わが国で茶を自前で生産して人民に与える構想を抱いて茶の苗木を自ら邸宅に植えて栽培試験も行った。

茶の木の栽培に深い関心を払った金正日総書記は、人民がよい茶を飲み、主席の恩恵を末永く伝えるようにするために、わが国で生産された茶を「恩情茶」と名づけた。

金日成主席と金正日総書記の思いやりに富む愛が宿っている恩情茶は、敬愛する金正恩総書記の細心な関心の下、わが人民の生活により深く位置づけられるようになった。

金正恩総書記は、茶の木の栽培面積を年次別に増やして肥培管理を改善し、恩情茶のサービスもよくする一方、人民がいつどこでも便利に飲める茶飲料を生産する工場を立派に建設するように措置を取った。

突然の指示を受けて、教育現場は困惑している。

咸興市内の成川江(ソンチョンガン)区域のある初級中学校では12日、緊急会議を開き、教師に教育部の指示を伝え、各自が緑茶を調達して生徒に飲ませるように指示した。

一部の教師は「生徒に緑茶を飲ませれば、健康と記憶力に良いことは誰でも知っている」としつつも、「緑茶を手に入れるのはそんなに簡単なことではないのに、その費用はどうやって解決しろというのかわからない」と、指示に疑問を示した。

また別の教師は「学生に緑茶を供給するにはカネが必要だが、配給も生活費も支給されないのが実情なのに、どうしろというのか」「結局は、生徒に税金外の負担をさせるしかなく、その負担は保護者のところにいく」と述べた。

教育が無償で受けられることになっている北朝鮮だが、実際には様々な名目で児童・生徒から金品を徴収するのが当たり前になっていて、今回もその前例に従うしか方法がないのだ。金正恩氏は、税金外の負担を厳しく戒める発言をしたが、全く守られていないのが実情だ。

(参考記事:「税金外の負担」禁止令が破られる、税金のない国・北朝鮮

「金正恩氏に喜びを届けよう」とのふれ込みで始まった今回のプロジェクト。従わなければ、政治的に問題のある人物とみなされてしまうため、やらざるを得ないのだが、現在の北朝鮮国民が置かれた状況を考えると、非常に的はずれだ。

「生活の苦しい教師や保護者に、今緑茶などどうでもいい」
「お上は、見かけはいいものの、荒唐無稽な方針を下し、教師や保護者は呆れ返っている」(情報筋)

(参考記事:「住民は希望を失った」北朝鮮・高山地帯の深刻な食糧事情

緑茶のみならず、この手の民間療法は、政府が率先して推奨する有様だ。それは、医薬品の不足が極めて深刻であることを示している。

(参考記事:北朝鮮国営テレビおすすめのコロナ対策は舌磨きと足裏マッサージ