厳しい食糧事情の続く北朝鮮。先月からの全国的なロックダウンにより、さらに拍車がかかり、一部ではロックダウンの緩和に踏み切らざるを得ない状況になっている。
そんな地域の一つが、中国との国境に接する両江道(リャンガンド)だ。
(参考記事:餓死者発生か…北朝鮮、コロナ対策の都市封鎖を解除)現地のデイリーNK内部情報筋は、ロックダウンが緩和された直後の先月末、朝鮮労働党両江道委員会が緊急会議を開き、苦しい生活を強いられている世帯の食糧問題について討議が行われたと伝えた。
情報筋によると、道内の住民の食糧問題は極めて深刻だ。三水(サムス)、甲山(カプサン)など一部地域では、食べるものがなく、家で寝込んでいる人が少なくない。甲山郡の三峯里(サムボンリ)と陽興里(ヤンフンリ)では、住民の3割が家で寝込み、仕事に出てこれない状態となっている。
農作業の多くを人力に頼る北朝鮮では、農場の出勤率低下は、穀物生産量の減少に直結する。既に食糧難の悪循環が始まっているのだ。
(参考記事:「もう食べるものがない」金正恩の足下で響き渡る悲鳴)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
緊急会議では、道内の市・郡の保衛部と安全部が、各地域で少なくとも5世帯の絶糧世帯、つまり食べ物の備蓄が底をついた世帯の実態を把握し、食糧問題を解決し、今月中旬までに報告せよとの指示が下された。
保衛部は、拷問や公開処刑に象徴される恐怖政治の実働部隊であり、安全部は日本の警察に相当する。両者とも日ごろから住民の監視に当たっているだけあって、地域の実情に明るいことから、彼らに問題の解決が丸投げされたのだ。
(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面しかし、かつては配給で優遇されていた保衛員と安全員も、今では家族分の配給を受け取れなくなっている。つまり1人分の食糧配給で、家族全員が食べていかなければならない状況に陥っているのである。
(参考記事:「何を食えばいいのか」金正恩の処刑部隊でも不満増幅)現場からは「我々も苦しいのに、赤の他人の食糧問題まで解決しろと言われても、どうしようもない」との声が上がっている。
恵山(ヘサン)市内で勤務するある保衛員は、「1ヶ月近く続いたロックダウンで、コメがなくなった家が1軒や2軒ではないのに、自分たちのところには天からコメが降ってくるとでも言うのか」と不満を爆発させた。彼らの家族も、上からの指示に呆れたという反応を見せているという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面当局は「発熱患者は減少傾向にある」と宣伝しているが、それならばなぜロックダウンを完全に解除しないのかの疑問も渦巻いている。ただ、食糧難は、ロックダウン以前のはるか前、2020年1月に国境を封鎖してコロナ鎖国に入ってから徐々に深刻化したもので、ロックダウンを解除しても、違法なものを含めた貿易が正常化しない限りは、食糧難の解決は難しいだろう。
(参考記事:北朝鮮国民の間で広がる「コロナではなく飢餓で死ぬ」恐怖)