「この犬野郎、殺すなら殺せ」頑強に抵抗した北朝鮮女性たち

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北朝鮮は、世界的にも進んだ男女平等法を70年以上も前に採択した一方で、旧来からの男女差別が根強く残存する社会でもある。一方で、必ずしも職場に縛られることのない女性が、市場で商売することで一家の生計を担い、経済的に男性より優位にある。

そんな北朝鮮の女性たちが、安全員(警察官)などの取締官とトラブルを起こし、金正恩総書記の権威をかさに着た当局側がタジタジになる事例が多数報告されている。詳細を、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

今月5日、北朝鮮は咸鏡北道(ハムギョンブクト)茂山(ムサン)でのことだ。40代女性が天ぷらを売っていた。彼女はこの商売で4人家族の生計を立てていたが、市場の売台(ワゴン)を借りる経済的余裕がなく、路上で商売をしていた。そこに安全員(警察官)と巡察隊が、イナゴ商人(露天商)の取り締まりにやって来た。

普段なら、取り締まりにやってきた安全員に、タバコを1箱掴ませて追い返すのだが、この日に限って天ぷらの売れ行きが悪く、タバコを買うカネすらなかった。すると安全員は、女性の売り物を没収しようとした。

(参考記事:ワイロでなし崩しにされる北朝鮮の「イナゴ商人掃討作戦」

そんな安全員に女性は、「この犬野郎」「殺すなら殺せ」などと罵詈雑言を浴びせかけ、抵抗した。結局、安全員は引き下がったようだが、その様子を見ていた周りの人々は「胸がすく思いだ」「今の時代、優しいだけの女性はダメだ」などとリアクションを示した。

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この一部始終を目撃した現地住民は、「以前のように安全員の取り締まりにおとなしく従わず、わめきたてて騒ぎを起こすのが当たり前になっている」とRFAに証言した。

市場で商売をするには市場管理費、つまりショバ代を当局に納めることになっているが、その余裕すらない人々は市場周辺の路上で商売をしている。市場外で商売をされると、ショバ代の取りはぐれになるため、取り締まりの対象としているのだ。

(参考記事:「女性イナゴ商人」踏みにじる金正恩体制に北朝鮮国民が反発

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別の情報筋は、今月初めに平安南道(ピョンアンナムド)殷山(ウンサン)で起きた出来事を伝えた。

家の前の路地でタバコを売っていた60代女性。そこに地域担当の安全員がやって来て「商売をするなら市場でやれ」とイチャモンを付けてきた。タバコを没収しようとする安全員に、女性はしがみつき、タバコを返せと訴えたところ、暴力を振るわれた。

激怒した女性は、物音に気づいて外に出てきた夫と共に、安全員の胸ぐらを掴み、「なぜ老人を殴るのか」と掴みかかった。もみ合っているうちに、安全員の制服の袖が破けてしまった。

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近隣住民が見守る中で、顔に泥を塗られた安全員は2人を逮捕、4ヶ月の労働鍛錬刑(懲役刑)の判決が下された。それを聞いた住民は「国の法律を乱用している」と安全員のやり方を非難している。威厳を保たなければならない安全員だが、今回の件で、地域住民から鼻で笑われる存在になったことだろう。

さらに、核実験場があったことで知られる咸鏡北道(ハムギョンブクト)吉州(キルチュ)からは、安全員より恐れられている保衛員(秘密警察)と地域の女性とのトラブルの話が伝わってきた。

事件が起きたのは今年1月中旬。郡内の紅繍里(ホンスリ)で、保衛部の指導員が地区班長(村長)の女性を訪ね、住民台帳と行方不明者の書類を作成して提出するように指示した。

ちなみに、北朝鮮において行方不明者とは、単に消息不明であるというだけでなく、脱北した可能性のある人という扱いにされ、政治問題として扱われる。

(参考記事:北朝鮮が「国勢調査」で脱北者探し

さて、この書類だが、何らかの事情で期日までに提出できなかった。保衛指導員は地区班長2人を自分のオフィスに呼び出し、保衛部の指示に歯向かったとして、地面に正座させた。地区班長は「何の罪があって、罪人のように正座させるのか」を激しく抗議した。怒った保衛指導員は、2人に手錠をかけた。

これに激怒した2人は「この犬野郎、手錠を外せ」とわめきたてたものの、保衛指導員の人権侵害行為は1時間あまりにわたって続いた。

ようやく帰宅を許された地区班長2人は翌日、朝鮮労働党吉州郡委員会に、保衛指導員の人権侵害行為を信訴(告発)したが、もみ消されてしまった。2人はそれで引きがらず、平壌の朝鮮労働党中央委員会に信訴し、保衛指導員を解任に追い込んだという。

信訴とは、理不尽な目に遭った国民が中央に訴える「目安箱」のようなシステムだが、途中で妨害されたりもみ消されたり、或いは加害者から逆襲されたりしないように、強力なコネを使うなどの「事前工作」が必要だ。2人はどんな手を使ったのか不明だが、権利意識を持ち、システムをうまく利用する術を知った賢明な女性であることに違いないだろう。

(参考記事:金正恩が処刑…平壌医大「性的虐待」鬼畜グループと、ある母親の戦い