大々的な取り締まりを宣言し、見せしめとして違反者を公開裁判にかけるなどして徹底的に辱めたり、場合によっては公開処刑して恐怖心を与える。これが、法の周知徹底を図る北朝鮮式のやり方だ。犯罪者を市中引き回しにし、打首にした上で晒すという、前近代のやり方を21世紀になっても踏襲しているのだ。
そして、これには「続き」もある。しばらくすると、取り締まる側が権限を振りかざし、ワイロをせびり取るところまでセットになっているのだ。
当局は、財政難を解消するために、「チャンセ」(ショバ代)と呼ばれる市場管理費という税金を払わず、市場の外の路上などで商売をしている「イナゴ商人」に対する「掃討作戦」を今年4月から行っているが、早速ワイロのやり取りが始まったと、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
(参考記事:「女性イナゴ商人」踏みにじる金正恩体制に北朝鮮国民が反発)安全員(警察官)はイナゴ商人や、彼女らに商品を供給する「クルマクン」と呼ばれる運び屋を取り締まり、商品を没収した上で、場合によっては労働鍛錬隊(刑務所)送りにしていた。
没収された商品を取り返すには、ワイロが必要だ。例えばコメ500キロを取り戻すためには、86キロ分にあたる中国人民元1000元(約1万6900円)のワイロを支払わなければならない。当局は、国内での外貨使用を禁じる命令を下したが、ワイロは外貨で受け取るのだという。国内で流通する外貨を国家に吸収することに躍起になっていることを考えると、理にかなっているとも言えなくはない。
(参考記事:外貨使用禁止令に為替レートの急激な変動…混乱気味の北朝鮮経済)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
最近に入って、品物を大量に扱う「ムルチュ」と呼ばれる商人は、安全員にこんな話を持ちかけるという。
「大量の品物を目的地まで安全に運べるようにしてほしい」
その手間賃は100元(約1690円)から200元(約3380円)。かつてなら、安全員は相手にしなかったほどの少額だが、コロナ鎖国で生活が苦しいのは彼らとて同じ。今では積極的に受け取り、表向きは取り締まるふりをして、運搬に協力しているのだ。かつては司法機関に対しては手厚く行われていた配給が、最近になって欠配、遅配が相次いでいることが背景にある。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面(参考記事:金正恩「拷問部隊」も動揺…北朝鮮 “飢餓の行軍” の末期症状)
かくして「イナゴ商人掃討作戦」は、安全員の小遣い稼ぎに化けてしまった。もちろん、100元はおろか、1日3000北朝鮮ウォン(約69円)の市場管理費すら払えないほど困窮している零細なイナゴ商人が、依然として安全員に虐げられていることは言うまでもない。