最近、北朝鮮の国家保衛省（秘密警察）が、北部の両江道（リャンガンド）に対する集中検閲（監査）を再び行っている。国内情報の流出を遮断できずにいるとの指摘を受け続けてきたが、朝鮮労働党中央委員会第8期第4回総会を前に、成果を誇示する狙いがあったと見られる。

デイリーNK内部情報筋によると、集中検閲が始まったのは12月初旬のこと。その目的は「共和国（北朝鮮）の寛大な政策にも、依然として自首せずに中国の携帯電話を使用する者どもを最後の一人まで必ず根絶やしにする」というものだ。

また、「中国の携帯電話使用者を庇護し、国家機密を敵どもに売り渡す者どもを徹底捜査、割り出して処罰する」との方針を示した。

国家保衛省の要員は8日午後11時ごろ、40代女性キムさんを、違法な携帯電話の使用と外貨流通容疑で、恵山（ヘサン）市内の自宅で緊急逮捕した。

彼女は、恵山では知らぬ者がいないほど大物の闇両替商で、昨年1月のコロナ鎖国で中国との貿易が途絶えた後に、中国や韓国に住む脱北者からの送金を北朝鮮に届ける送金ブローカー業にもビジネスを広げていた。扱っていた額の大きさからして、地域経済の「女ボス」的な存在だったと思われる。

キムさんは今まで築いてきた地方政府の幹部とのコネを積極的に利用していたが、その中には地元の両江道保衛局（秘密警察）の幹部も含まれている。幹部は、キムさんが取り締まりに引っかからないように、中国の携帯電話を探知する電波探知機の稼働時間とパトロール時間まで教えるなど便宜を図っていた。

キムさんと共に送金ブローカー業を営んでいた6人も同時に逮捕された。中国から受け取った送金の15％をキムさんが手数料として受け取り、そこから20〜30％の手数料を取って相手に伝える「セッキ（子ども）ブローカー」と呼ばれる人物だ。

家宅捜索の結果、キムさんの自宅からは中国の携帯電話3台と現金150万元（約2700万円）が発見された。彼らが1ヶ月に取り扱ってきた送金額は平均して80万元（約1448万円）。そのほとんどが韓国からの送金だった。脱北して韓国で暮らし、働いて貯めたカネを北朝鮮の家族に仕送りする人は少なくない。

情報筋によると、国家保衛省は今回の事件を、北朝鮮では極めて重罪とされる金（ゴールド）の密輸事件と同様に深刻なものと見ている。つまり、キムさんが処刑される可能性もあるということだ。また、取り調べが進むにつれ、芋づる式に地元幹部が摘発される可能性がある。

（参考記事：女性芸能人たちを「失禁」させた金正恩氏の残酷ショー）

今回、平壌の国家保衛省の要員が派遣されたのは、地元にしがらみがないからに他ならない。多くの商行為が違法とされてしまう北朝鮮で、商売を円滑に進めるためには、地方政府の幹部とのコネが欠かせない。

そのため、中央がいくら取り締まりの意思を示しても、地元に捜査を任せておいては一向に進まないのだ。

かくして、大物闇両替商の一味は一網打尽にされたわけだが、扱っていた額の多さを考えると、地域経済に与える影響は少なくないものと思われる。中国や韓国に住む脱北者からの送金が、地域を潤すという「出稼ぎ経済」が崩壊の危機に立たされているのだ。

「水清ければ魚棲まず」の状態に北朝鮮は耐えられるのだろうか。