「額上計画」とは、売上目標を意味する北朝鮮の用語だ。ただ、強制力を伴っている点で、他の国の企業の売上目標とは異なる。
世界で唯一、依然として計画経済に固執している北朝鮮は、国家計画委員会が工場一つひとつの生産量と売上を計画(ノルマ)として設定し、その達成を強いる。計画には、製品別の生産高を指す指標別計画と上述の額上計画があるが、市場価格より遥かに低い国定価格で設定されているため、後者の達成は決して難しくなく、できなくとも適当にごまかすこともできた。
しかし、昨今の経済難で、いよいよそれすらできない状況に陥りつつあるようだ。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
咸鏡北道人民委員会(道庁)は、道内のすべての機関、企業所に対して、今月中旬までに額上計画を達成し、財政総和(総括)と年末決算報告書を提出せよ、できなければ額上計画だけでも達成せよとの指示を下した。
情報筋によると、昨年までは帳簿の検閲(監査)が行われても、嘘を並び立てて切り抜けることができたが、今年は生産量と売上高がきちんと合っているかを細かくチェックするなど非常に厳しくなっている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面各企業の担当者は、大慌てで額上計画の数字合わせに乗り出したが、もはやどこにもカネはない。
稼働している工場ならまだしも、稼働が止まっている工場の場合は近年、所属する労働者が商売のために欠勤することを認める代わりに、一定の金額を納めさせる「8.3ジル」や、施設や敷地をトンジュ(金主、新興富裕層)に貸し出して得られる現金で、額上計画をこなしていた。それもコロナ鎖国による経済不況や、8.3ジルそのものへの取り締まり強化などで、難しくなってしまった。
(参考記事:北朝鮮の国営企業「無断欠勤」従業員の連れ戻しに必死)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面企業に唯一残された方法は、従業員から借金をすることだ。イルクン(幹部)は従業員の家を訪ね歩き、集会動員、勤労動員などの「組織生活」を1年間免除する、困りごとを解決してやるなどと持ちかけ、カネを借りようとしているのだという。
しかし従業員の側は、「昨年も同じようにカネの無心をされて貸してやったのに、細々としたことにすべて動員された」として、企業の甘い言葉には騙されないと言っているとのことだ。
また、そんなやり方に腹を立てた一部の従業員は、検察所に通報した。しかし、「国の事情が苦しいので致し方ない」と信訴(告発)を受け付けようとしないという。そればかりか検察所の担当者は、「今のような状況では、世の中は違法行為だらけ、ごく当たり前のことを信訴したからと、問題が解決するわけでもない」と言い訳し、引き下がらなければ企業のイルクンに知らせると居直る始末だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面国営企業は社会を構成するコミュニティであることから、稼働率がゼロと言えども、簡単には潰せないため、上述のような8.3ジルなどで延命するしか方法がなかった。
国営企業の「体裁」すら維持できなくなったとき、北朝鮮は果たして、どのようになってしまうのだろうか。