金正恩総書記が今年3月に、「普通江川岸段々式住宅区」建設と共に打ち出したプロジェクト、「平壌市1万世帯住宅」建設。平壌市郊外の寺洞(サドン)区域の松新(ソンシン)・松花(ソンファ)地区など5つの地区に2025年までに毎年1万世帯ずつ、全体で7万世帯の住宅を建設するというものだ。
松新・松花地区の住宅では内装、外装工事が盛んに行われているが、平壌のデイリーNK内部情報筋は、今年中の完成は不可能だと見ている。その理由は電気と暖房だ。
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この地域では、新築住宅に電気を供給するための送電設備を再整備または新たに設置しなければならないが、変圧器、電柱などの調達をしようにも、国からの供給がないのだという。
現在、国境線沿いにコンクリート壁と高圧電流の流れる電線の設置工事が進められているが、変圧器、電柱が思ったように調達できず、工事が遅れていると伝えられている。コロナ鎖国で外貨不足の中、双方の地域で電気設備を調達するのは至難の業だろう。
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電気設備が完成したとしても、今度は電気の供給が問題となる。現在、炭鉱への電気供給が円滑に行われておらず、石炭の採掘に支障が生じているため、玉突き式に発電にも影響が出ている。郊外より優遇されている平壌市内中心部ですら、電力不足で生活に支障が出ているとのことだ。
平壌市民からはこんな声が聞こえるという。
「電気が来ないのならエレベーターも使えず、水も(地上から)汲んでこなければならない。だったら一度入居して、2〜3年後に売り払い、平屋に引っ越したほうがマシかも知れない」
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面平壌より電力事情の悪い地方都市では、高層マンションより5〜6階建てのマンションの方が人気があると言われているが、平壌郊外でも事情は同じということだろう。
(参考記事:北朝鮮、恵山市でマンション建設ブーム…土地確保のため「地上げ」も)寺洞区域には、着火炭を売って生計を立てている人が多く、暖房は練炭を使ったオンドル(床暖房)を使っている家が多いが、今回建設されるマンションのうち、6棟では都市ガスで暖房を行う方式が採用された。
ところが、国家供給所ではガスを国定価格ではなく高い市場価格で販売しており、暖房費が非常に高く付く。同じようにガス暖房を採用した黎明(リョミョン)通り、9.9節通り、未来科学者通りのタワーマンションでは、ガス暖房を使えず寒さに震えている人も多いとのことだ。6棟の入居予定者の間からは、練炭での暖房にしてほしいとの声が上がっている。
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そんな声をよそに、建設指揮部は計画通りに建築を進めている。建設を担当する朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の建設部隊、首都建設委員会、速度戦青年突撃隊、革命史跡地建設局、対外建設局などにマンションの内装工事を行うに当たって発生した問題を解決すると同時に、いつでも金正恩氏が視察する1号完工行事ができるように、周囲の緑化作業を指示した。
実際の住心地や暮らしやすさよりも、金正恩氏に見学させ、国営メディアを使ってプロパガンダを行うことのほうが重要なのだ。
(参考記事:「とても住めたもんじゃない」北朝鮮国民が”金正恩住宅”を酷評)