軍を支援「ドングリ戦闘」に苦しめられる北朝鮮の子どもたち

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ドングリは、日本ではあまり食用として使われないが、お隣の朝鮮半島ではよく食べられる食材だ。

韓国では、粉にして水にさらしてアクを抜いたものをコンニャクのように固めて、醤油、ニンニク、ネギなどをかけて食べる。しかし、あくまでも食卓を彩る様々な小皿料理の一つに過ぎない。

これが軍事境界線の北側の北朝鮮になると事情が異なる。国際社会の制裁、相次ぐ自然災害に加え、昨年1月からのコロナ鎖国で深刻な食糧難に陥っている北朝鮮で、ドングリは貴重な食べ物だ。朝鮮労働党は直々に「ドングリ戦闘」を命じ、子どもたちは授業も受けられずに、ドングリ拾いに追いやられている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

黄海南道(ファンヘナムド)殷栗(ウンリュル)の情報筋は、小学校低学年を除く郡内のすべての学校で児童、生徒が「ドングリ戦闘」に動員されていると伝えた。これは道党(朝鮮労働党黄海南道委員会)が下した命令に基づき、先月5日から行われているもので、ドングリ採集のノルマが達成できなかったことから、授業を中断してドングリを拾う「ドングリ休み」も1週間取られた。

それでも達成できなかったことから、道党はドングリ休みを今月10日まで延長し、無条件でノルマを達成することを強いているとのことだ。北朝鮮は、教育の重要性を度々繰り返してきたはずなのだが、そんなことは言ってられないほど、食糧事情が切迫しているということだろう。

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さて、そのノルマだが、小学校4〜5年生は1人あたり5キロ、初級中学校1年生は8キロ、2年生は10キロ、3年生は12キロ、高級中学校(高校)1年生は14キロ、2年生は16キロ、3年生は18キロだ。

集められたドングリは軍に支援物資として届けられる。軍部隊傘下の食料工場で、不足する大豆の代わりに、ドングリを蒸して乾燥させ粉砕した「ドングリ米」を半分混ぜて、味噌や醤油の原料にするのだという。

平安南道(ピョンアンナムド)大同(テドン)の教育関係者も、現地で「ドングリ戦闘」が行われていると伝えた。道党(朝鮮労働党平安南道委員会)は、児童、生徒以外にも女盟(朝鮮社会主義女性連盟)のメンバーにも1人あたり5キロのノルマを課した。

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学校は1週間の「ドングリ休み」に入ったが、誰一人としてノルマを達成できた者はおらず、学校側から「ドングリを出せ」と脅かされた児童、生徒の中には、祖父母まで動員してドングリ拾いをしている者もいるとのことだ。

さらに、教師は家庭訪問を行い、「(朝鮮労働党創建日の)10月10日までにドングリが出せなければ、代わりに大豆を出せ」「大豆1キロ出せばドングリ2キロ出したことにする、現金の場合は1キロあたり1700北朝鮮ウォン(約37円)で計算する」と伝えたという。

ドングリの供出が建前だが、達成が難しいほどのノルマを課した上で、現金で出してもいいというのは、現場レベルの本音はカネ儲けにあることを示している。金正恩総書記は「税金外の負担」を固く禁じたはずだが、そんなものは完全に無視されているようだ。

(参考記事:金正恩氏が禁じた「税金外の負担」で摘発事例

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「全人民的運動、全群衆的運動」との触れ込みで行われている今回のドングリ戦闘だが、住民は強い反感を示している。

「最近のように苦しい時期に女盟に(ドングリを)出すのも精一杯なのに、登校しない子どもたちの分まで出させることのどこが全人民的運動なのか」(地元住民)

この手の供出は今に始まったことではなく、毎年のように繰り返されている。

(参考記事:北朝鮮の中高生「残酷な夏休み」…少女搾取に上納金も

金品そのものを集めることのみならず、国民の結束、統制を図るという意味合いもある「全人民的運動」であることには違いない。こんなことをやらされた上で、国家経済発展5カ年計画のノルマ達成も強いられるのだから、たまったものではない。

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