秋の収穫が本格化している北朝鮮。当局は今まで同様に、都市部の住民を大量に農場に送り込み、一気に収穫を済ませようとしているが、現場レベルでは対応に苦慮している。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
咸鏡北道(ハムギョンブクト)のある企業所の幹部は、郡内の機関、企業所は秋の農村支援の動員人数を減らすために、それぞれ密かに「事業」、つまりその数を減らすためのロビイング活動を行っている。その理由は、割り当てられた人数を満たすのが困難だからだ。
困難な理由として最初に挙げたのは、秋の国土管理総動員期間だ。1996年10月から始まり年2回行われているこの総動員だが、植林、道路整備、川の整備や浚渫、堤防の建設などが主な仕事だ。これに人員を割かれているところに、さらに農村支援の動員がかけられても、手に負えないということだ。
二つ目に挙げたのは、そもそも出勤しない従業員の存在だ。工場や企業所は従業員にまともな給料や配給を渡せる状況になく、従業員の中には「8.3ジル」と言って、上司にいくらかのワイロを掴ませて出勤を免除してもらい、商売に勤しむ者がいる。連れ戻してしまうと、従業員は生活に困り、企業所はワイロという収入を失ってしまうのだ。
(参考記事:北朝鮮の国営企業「無断欠勤」従業員の連れ戻しに必死)農村支援に動員されるのは全従業員100人のうち25人だが、既に国土管理に動員されている従業員と、元々出勤していない従業員まで合わせると、企業所に出勤する人はほとんどいなくなる。そうなると、今年1月の朝鮮労働党第8回大会で金正恩総書記が提唱した「国家経済発展5カ年計画」に基づき、企業所に割り当てられた生産ノルマが達成できなくなってしまう。いずれが欠けても、「党の方針に反した」として批判されるのみならず、どんな処罰を受けるかわからない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そこで、企業所の支配人は、知己を頼り地元の朝鮮労働党委員会組織部の幹部と、市場価格で30万北朝鮮ウォン(約6600円)相当のガソリン30キロを提供する代わりに、農村支援の動員人数を25人から10人に減らすことで話をつけた。
人数が減らせたことは、予算面でも大きなメリットがある。農村支援に行った従業員の宿代、食費は企業所が負担しなければならないが、25人となると相当な額になる。動員人数を減らせたことは、この負担も減らせたことになる。また、通常の生産ノルマの達成に回す労働力も確保できた。
ちなみに動員に関しては人民委員会(市役所)が司ることになっているが、ここが指示を下しても権威がなく、工場、企業所、機関が言うことを聞かないため、効率的に行うために党委員会が行っているとのことだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面平安北道(ピョンアンブクト)でも事情は同じようだ。現地の企業所の幹部は次のように語っている。
「ただでさえ大変な農村動員なのに、(コロナ禍で)苦しい時期におとなしく応じる人がどこにいる。企業所の責任イルクン(幹部)は日々、農村動員の人員確保のために頭を抱えている」
「どの工場でも出勤率が低いのに、お上に言われた通りに社会的動員の人員を送り出せば、工場はどうやって稼働させるのか」
かくして、ここでも「事業」が活発に行われているが、地元の幹部のみならず、農村動員を受け入れる側の協同農場の分組長にワイロを掴ませるケースすらあるという。この企業所の場合、実際に動員された人数が来てどのような作業を行ったことを記した確認書に、人数を水増しして記してもらうために、北朝鮮の農村ではかなりのごちそうの犬肉スープを振る舞ったという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面この手の書類はいくらでも偽造が可能なため、ワイロが飛び交う事態を招く。不足する肥料を補うための人糞集めがその典型だろう。数トン単位のノルマを押し付けられ、とてもこなせないため、農場にワイロを払って納めたことにしてもらい書類を発行してもらうのだ。
(参考記事:一人あたり500キロの人糞集めから始まる北朝鮮の新年)ただ、ただでさえ労働力不足に苦しみ、軍を除隊したばかりの人々を「集団配置」と称して送り込まれているほどの実情にある農場に、農村動員の人々が充分に来てもらえないとなれば、秋の収穫は遅れることになる。台風にでも襲われればひとたまりもないだろう。
(参考記事:兵役繰り上げ終了の北朝鮮兵士5000人、集団で地方に飛ばされる)この幹部は「最近はすべてのことを党が握っているが、何の考慮もなく無条件で(命令を)下す」として、上部が現場の状況を全く無視した命令を乱発することに対して批判した。「上に政策あれば下に対策あり」が北朝鮮のお国柄。政策を言われたとおりに遂行するよりも、処罰されないように取り繕うのが、彼の国で生き残るすべなのだ。