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金日成時代の北朝鮮は、すべてではなくとも多くの国民が、ゆりかごから墓場までの保障はもちろんのこと、衣食住のほとんどすべてを国から配給され、贅沢はできなくとも安定した暮らしが営めたとされる。そのような時代の祖国を知らず、生き馬の目を抜くような市場経済化した社会で生き抜いてきた北朝鮮の若者たちはチャンマダン(市場)世代と呼ばれる。

彼らの特徴は、最高指導者や国、党に頼って暮らしを営んだことがないため、それらをありがたがり、忠誠を尽くそうとする考えが希薄なことだ。そして、韓流ドラマや映画に描かれているような、自由で豊かな暮らしを渇望している。

しかし、北朝鮮社会の現状はそんな若者の期待とは正反対の方向に進んでいる。

金正恩総書記は、今年4月の朝鮮労働党第6回細胞書記大会の結語で、「青年の健全な成長と発展に否定的影響を及ぼす要素が少なくなく、新世代の思想・精神状態において深刻な変化が起きている」とし、次のように指摘した。

青年の服装と髪型、言行、対人関係についても母親のように細やかに見守り、精神・文化生活と経済・道徳生活を正しく、かつ高尚にするよう常に教育し、統制すべきです。

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当局が、韓流の視聴や流通を取り締まるのみならず、言葉遣い、ファッションなどについて事細かく指摘し、厳罰を与えることもしばしばある。

(参考記事:「愛の不時着」モノマネした罪で8人を逮捕

そんな現状を北朝鮮の若者はどう受け止めているのか。デイリーNKは、20代の子どもを持つ北朝鮮国民Aさんとのインタビューを行い、若者に対する思想統制強化について質問した。その結果は一言でいうと「逆効果」だということだ。

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ーー国、党、最高指導者に対する若者世代の一般的な考えは?

Aさん:国がやることにはあまり興味を持たない。党と元帥様(金正恩氏)については学校で教わるだけで、実際の暮らしとは関係がないと考える若者がほとんどだ。国に忠誠を尽くし身を捧げるという概念そのものがきちんと学習されていない。

ーー国家観がきちんと定まっていない?

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Aさん:国が豊かになることよりも、自分が豊かになることを考える。最近の若者にとって人生最高の価値とは、カネを稼いで楽に暮らすことだ。昔のように(朝鮮労働党に)入党して出世することを目標にしない。

ーー若者が農村、炭鉱、建設現場行きを「嘆願」しているとの報道がある。それを見る限り、若者が忠誠心に満ちあふれているように見えるが。

Aさん:高級中学校(高校)の卒業生の嘆願は強制的に行われたものだ。党が学校に嘆願集会を開くように指示し、これ(嘆願)を誘導したもので、自発的にあんな集会を開いたわけではない。組織から集会開催を指示されれば、学生は拒否し難い。社会的(にいかに上手く振る舞うべきか)判断するには幼すぎることもあるし、下手に拒否して耐えきれないような処罰や脅迫を受けかねないからだ。

(参考記事:各地でトラブル続発、北朝鮮の農村「嘆願」事業

ーー親世代の考えは?

Aさん:子どもを厳しいところに送り出そうとする親がどこにいるのか。大体が、カネを使って厳しいところに配属されないように手を回す。表に現れる組織生活での姿と、個人の考え方の乖離がどんどんひどくなっている。表向きは国に忠誠を誓っているように見えても、心のなかでは自分の暮らしのことしか考えていない。

ーー当局は若者の身だしなみ、言葉遣い、思想まで強く統制しようとしているが、若者は従わざるを得ない?

Aさん:厳罰化されればおとなしくするかもしれない。若いうちに組織や司法機関の処罰を受ければ、今後の人生が苦しくなる。しかし、強い統制は若者の欲求を一時的に抑えているに過ぎず、考え方そのものを変えられるわけではない。国の統制に従っても、党への不満は高まるばかりだ。

(参考記事:「オッパと呼ばないで」金正恩が禁止命令を出した意外な相手

ーー若者世代と当局の間の認識の乖離が広がっている?

Aさん:若者が望むのは自由だ。希望する職場に配属され、見たい映画を見て、行きたいところに行ける自由を望んでいる。そんな若者に凶器を突きつけて厳罰化すると言って、思想まで変えられるものか。むしろ反発心が大きくなるばかりだ。若者への思想統制を強化すればするほど、若者の心を捉えるのがさらに難しくなるだろう。

ーー金正恩政権が若者の思想統制に集中する理由は?

Aさん:1990年代の「苦難の行軍」を経て、国民の党と首領に対する信頼が崩れ去った。おとなしく党と国を信じて忠誠を尽くしていたら、餓死してしまうということを身を持って学んだからだ。特に若者世代の中には、南朝鮮(韓国)のドラマや映画などを通じて、外の世界の情報や文化に接した経験を持つ人が多い。

今の(北)朝鮮の体制と政策が正常ではないことを認識している若者も増えている。南朝鮮のように自由な世の中を志向している。当局も、若者のそんな考えを認識し、危機を感じたのだ。今、若者の思想を抑え込まなければならないと判断したため、若者の思想統制に執着しているのだ。

(参考記事:北朝鮮当局、特権階級の若者ら対象に「思想チェック」開始