北朝鮮当局、労働者を餓死から救った「庶民の英雄」を逮捕

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中国との国境に接する北朝鮮・咸鏡北道(ハムギョンブクト)の茂山(ムサン)は、国内有数の鉄鉱石鉱山を擁することで知られている。

その茂山で先月中旬、鉱山で使う爆薬を製造する工場の支配人が逮捕された。これに対して、地域住民からは疑問の声が上がっていると、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

茂山郡安全部(警察署)に逮捕されたのは、茂山鉱山の「3.23工場」の支配人を務める50代のパク氏だ。容疑は過去数年にわたり、約4トンのディーゼル油を売り払い、私腹を肥やしたというものだ。

しかし、この件に対する地域住民の見方は異なる。

「この支配人は、労働者の食糧問題解決のために心を砕くイルクン(幹部)の一人なのだ」(情報筋)

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大量の鉄鉱石を産出、輸出していた茂山は、豊かな街だった。ところが、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁、輸出先である中国政府の大気汚染対策、新型コロナウイルスなど悪材料が積み重なり、稼働率は激減。ヤマを降りる労働者が続出し、町はすっかり寂れてしまった。2019年ごろから労働者への食糧配給も止まってしまい、多くの人々が山菜採りなどをして生計を立てていた。

(参考記事:新型コロナで北朝鮮有数の鉱山も稼働半減

今では北朝鮮でも当たり前となった「商売で生計を立てる」という生き方だが、鉱山の好業績に守られて古い社会主義計画経済体制が残存していた茂山の人にとって、新たな生計の道を見つけるのは非常に困難なことだ。配給の停止は、餓死に直結するほど深刻な問題なのだ。支配人はそれを解決しようと、配給されたディーゼル油を売り払い、食糧を購入、労働者に配給していたのだった。

しかし、安全部はそんな労働者の苦境など眼中にはない。「犯罪は犯罪だ」として、情状酌量の余地をまったく認めていない。

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「労働者のために心を砕いた幹部が処罰を受けるという、とんでもないことが起きてしまった」(情報筋)

3.23工場は爆薬を取り扱うだけあり、普段から安全部や保衛部(秘密警察)の徹底的な監視を受けていた。国家の財産横領は重罪であり、極刑が下る可能性もある。

(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み公開処刑でズタズタにされた

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一方、今回の件には行政当局のイルクンも関与していると思われるが、パク支配人だけが罪をかぶらされる形となった。安全部の手が及ばない相手である可能性が考えられる。

このように、従業員のために働いた幹部が処罰を受ける事例は、枚挙にいとまがない。これでは、従業員がどうなろうが、何もしないほうがマシと考える風潮が幹部の間に広まってもおかしくない。

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状況は農村でも同じで、「凶作で軍糧米として差し出すコメがない、農民は飢えている」などと訴えていた協同農場の幹部が、軍糧米の供出を妨害した容疑で逮捕され、無期懲役刑の処分が下されると予想されている。こんな不条理がまかり通っているのが、北朝鮮という国の現実なのだ。

(参考記事:困窮する農民を救った「罪」で殺される北朝鮮の幹部