顔も知らない先祖のせいで収容所送りにされた北朝鮮のある一族

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北朝鮮は認めようとしないが、多くの人の証言で存在が明らかになっているのが、「土台」、「成分」と呼ばれる身分制度だ。国民一人ひとりの身分を、親のかつての職業、地位、本人の現在の状況に応じて、決定する。

それらを総合したものが「階層」と呼ばれるもので、基本群衆(核心階層)、複雑な群衆(動揺階層)、敵対階級残余分子(敵対階層)の3種類がある。最も身分が低いとされる敵対階層に含まれるのは、地主、富農、隷属資本家、親日派、親米派、悪質宗教家、宗派分子、宗派連座者、スパイ、農村の什長、企業家、商人など12の成分だ。

このような身分制度は、国連が明確に否定している「世系に基づく差別」に他ならない。

(参考記事:【徹底解説】北朝鮮の身分制度「出身成分」「社会成分」「階層」

身分は子々孫々受け継がれ、成分が悪く、階層が低いとされた人は軍への入隊、大学進学、就職など社会生活で様々な制約を受ける。それを避けるために、親や家族の過去を隠して生きる者もいるが、バレた場合には過酷な処罰を受けることになる。

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そんな事件が、韓国に程近い黄海南道(ファンヘナムド)の碧城(ピョクソン)郡で起きた。郡内を38度線が横断しており、朝鮮戦争の前には北朝鮮領と韓国領に分かれていた地域だ。郡の中心部にある協同農場で先月中旬、驚くべき事件が起きたと現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

農場に所属する農場員2人が、上部からの命令で「新しい土地探し」(開墾する余地のある土地を探すキャンペーン)の一環として、山を削って段々畑を造成していたときのことだ。地中から2つの箱を発見した。

かつて高麗の都だった開城(ケソン)に近い土地柄だけあり、骨董品だと思った2人は、密かに家に持ち帰った。売り払えばちょっとした儲けになると思ったのだろう。

(参考記事:北朝鮮と中国のブローカーが「骨董品」争奪の大乱闘

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箱を開けてみると、書類の塊が入っていた。何やら書かれていたがハングルだけでなく漢字も混じっており、彼には理解できなかった。書類を見た農場員の妻はこんなことを言い出した。

「これはどう見ても土地の権利書だ。通報したほうがいい」

夫婦は碧城郡の保衛部(秘密警察)に通報した。すると、上級機関の黄海南道保衛局の国内反探課(スパイ担当)の係官がやって来て、夫婦に「このことは誰にも言うな」と告げ、箱ごと文書を持ち去った。

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分析の結果、書類は日本が朝鮮を植民地支配していた時代の土地の権利書であることがわかり、そこには地主の名前と、その子孫は国家保衛省(秘密警察)の幹部として、権力を握っているということが書かれていた。

さらに調査を進めたところ、文書に書かれていた国家保衛省の幹部は実在したことがわかった。北朝鮮建国前の1947年に公民登録制度ができた際、先祖の誰かが地主であることを隠し、自分たちは貧農の下働きだったと身分を偽って登録、土地の権利書を土の中に埋めて隠したというのが、情報筋の説明だ。

朝鮮戦争の期間中に、左派と右派の激しい対立が起こり、数多くの人が犠牲になった黄海道からは、地主、富農、キリスト教徒など多くの人が難民として韓国側に逃れた。この一族は、何らかの理由で逃げずに黄海道に残ったようだ。

しばらくして、一族に対する処分が下された。

先月中旬、平壌の万景台(マンギョンデ)区域の堂上洞(タンサンドン)に住んでいた国家保衛省幹部とその家族、そして全国各地に住む親戚までが、忽然と姿を消した。全員が管理所(政治犯収容所)送りになったものと見られている。地主の子孫とあっては、生きて出られることはないだろう。

彼が地主の子孫であることが知られないまま、国民の一挙手一投足を監視する国家保衛省の幹部を務めていたことが知れ渡れば、国民からの非難は免れない。そのため連行は真夜中に密かに行われたと、情報筋は説明した。

(参考記事:男たちは真夜中に一家を襲った…北朝鮮の「収容所送り」はこうして行われる

情報筋の伝えた、黄海南道保衛局のこの件についての説明はこうだ。

「地主の家の出の黄長燁(ファン・ジャンヨプ)は、国を裏切った。富農の家の出の朴南基(パク・ナムギ)も国が面倒を見て勉強をさせたが、結局は党の政策をダメにした。先祖の血は隠せないから、根絶やしにしなければならない。こいつら(国家保衛省幹部一家)も、国への敵愾心を抱いて、いつ問題を起こすかわからない」

黄長燁氏は、北朝鮮で右に出る者がいないイデオローグだったが、1997年に韓国に亡命し、2010年に亡くなるまで北朝鮮批判を続けた。また、元朝鮮労働党計画財政部長の朴南基氏は、2009年11月の貨幣改革(デノミネーション)を主導。その失敗により「国の経済を大混乱に陥れた」とされ、処刑された人物だ。

事件のことを知ったある市民は「顔を見たことすらない高祖父のせいで、国のために働いていた人が一瞬のうちに剔抉(てっけつ、暴き立てて取り除く)対象になるなんて」と、同情した。

別の人は「われわれもいつ土の中に埋められた土地の権利書が見つかって、地主の家の出であることがバレて、処罰されるかわからない」として、決して他人事ではないとの反応を示した。

なお、70年前に埋められたはずの土地の権利書の入った箱に、子孫が何をしているかを記した紙が入っていた理由について、情報筋は言及していない。幹部の失脚を狙い、近年になって何者かが仕込んだ可能性や、事件そのものがでっち上げである可能性も捨てきれないだろう。

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