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 ※この記事には、性暴力の被害に関する具体的な記述が含まれています。

張真晟(チャン・ジンソン)氏。北朝鮮の特権階級の家に生まれ、金日成総合大学を卒業、朝鮮中央テレビや対韓国工作機関の統一戦線部101連絡所に勤めていたが、2004年に脱北した。

韓国に来てからは、情報機関・国家情報院傘下の国家安保戦略研究院で研究員を務め、北朝鮮専門ニュースサイト「ニューフォーカス」を運営する傍ら、様々な詩集、エッセーを出版。世界12カ国で翻訳出版され、ベストセラーとなった。日本でも『わたしの娘を100ウォンで売ります』(晩聲社)、『平壌を飛び出した宮廷詩人』(同)、『金王朝「御用詩人」の告白』(文芸春秋) などが出版されている。

この張氏について、韓国MBCの調査報道番組「ストレート」が取り上げた。それは、脱北女性を騙して性暴力を振るい、性上納を要求し、密かに撮影した性行為中の写真などをばらまくと脅迫する「セクストーション」を繰り返していたという、驚くべき内容だった。

被害の告発に踏み切ったのは、スン・ソリャンさん。2006年、18歳のときに北朝鮮の咸鏡北道(ハムギョンブクト)から祖母とともに脱北、中国を経て2008年に韓国に入国した。

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ビジネスを立ち上げることを夢見て、経営学を学ぶため2011年に大学に入学。ネットショップを運営しつつ、メディアにも出演してきた。

そんなスンさんのもとに2016年6月、張氏から突然連絡が来た。自らの営むニューフォーカスの面接を受けてみないかとのオファーだった。特権層出身の有名人だからと信じ切っていた彼女は、指定されたソウルの私立学校法人のオフィスに向かった。その場には法人の理事長の息子J氏も同席していた。面接の後、日本料理屋で夕食を共にしたが、執拗に酒を飲まされ泥酔状態に陥った。

翌朝目を覚ましたときには、J氏の自宅にいた。人事不省の状態で性暴力を受けたのだった。J氏の行為は、韓国刑法299条の準強姦(心神喪失、抵抗不可の状態を利用しての強姦)に当たるが、スンさんは自分の落ち度だと思ったという。

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「強姦だったのに、それを認識できませんでした。良からぬこと、恥ずかしいこと、そう考えてやり過ごそうと…」(スンさん)

北朝鮮では、性暴力、セクシュアル・ハラスメントなどの性犯罪についての教育が行われておらず、上司や上官から性行為を強いられたりしても、それが性暴力被害であるということを認識できない場合もあると言われている。また、「性暴力被害は女性の落ち度」「性暴力被害女性は他の男性と結婚できない」とする風潮があるため、被害に遭っても口をつぐんでしまう。

(参考記事:北朝鮮「突撃隊」で性暴力の餌食になった20代の女性隊員

韓国に来て8年経っていても、そこから抜け出せていなかったスンさんは、加害者J氏と1ヶ月の間付き合うこととなった。実は張氏は、J氏からニューフォーカスへの広告費を引き出すために、スンさんを「性上納」したのだった。

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(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

やがて、スンさんはJ氏との交際を断ったが、その3日後に張氏から「話がある、ボディーガードが一緒にいるから誤解しないで欲しい」とホテルに呼び出された。

しかし、ホテルの部屋にいたのは張氏ひとり。逃げようとするスンさんを髪の毛を掴んで引きずり、裸の写真を大学のネット掲示板にばらまくと脅迫された。いわゆる「セクストーション」だ。バラされたら大学に通えなくなると思ったスンさんは、抵抗できなかった。その後も含めて、性暴力は4回に及んだ。中には、「かわいい子を選んで連れてこい」と要求され、後輩を説得して連れて行ったこともあった。

ところが、ある人物との出会いでスンさんの気持ちに変化が生じた。

張氏からの同様の要求を断り続けてきたスンさんだが、昨年10月、事業を営むH氏と出会った。そして張氏から、H氏からニューフォーカスへの広告費と会社の情報を引き出して報告しろ、さもなくば写真をばらまくと脅迫の電話がかかってきた。

北朝鮮人権運動の支援に関わる中で張氏と知り合ったというH氏は、番組の取材に、スンさんに会った瞬間に怯えているのが見て取れ、メンタルのケアが必要と感じ、「彼女とはもう会わない」と張氏に伝えたと証言した。しかし、スンさんはH氏との付き合いを続けた。H氏を騙しているという罪悪感に耐えかね、彼にすべてを告白した。自分が騙され、スンさんが食い物にされていたことを知ったH氏は激怒。2人でこうした事実の公表に踏み切ろうとした。

まずは北朝鮮人権団体の代表を訪ねたが、「これがバレたら統一省や米国国務省からの補助金や資金が減らされる。韓国人の脱北者のイメージが悪くなる」と言われたという。そこで、2人は番組の取材班に連絡を取り、今回の告発報道に至った。

番組は張氏に取材を申し込み続けたが、応じることはなく、SNSのフェイスブックに被害者を攻撃する文章を掲載した。また、共犯者のJ氏は、虚偽の告発をしたとして、スンさんを逆に告訴した。スンさんは現在、J氏や他の加害男性に対する訴訟を準備している。

番組は、「成分」「土台」で分けられる北朝鮮の身分制度が、脱北者の間にも残っていることに加え、韓国社会で最も立場が弱く、性暴力についての知識を持ち合わせていない脱北女性が性暴力のリスクに晒され続けているが、被害を訴える声はかき消されてしまっていると解説した。

(参考記事:女性少尉を「性上納」でボロボロに…金正恩「赤い貴族」の非道ぶり

警察の身辺警護担当者に性暴力を受け続けた脱北女性の支援を行っているチョン・スミ弁護士は、北朝鮮にいるときに特権階層だった脱北者が、政府からの補助金、支援金、メディアへの出演の割り振りなどを牛耳っている実態を指摘。その関係者から性暴力被害に遭っても、狭い脱北者コミュニティでは声を上げられず、とばっちりを恐れて他の脱北者も手を差し伸べることが難しいと述べ、脱北女性が性暴力に遭っても口を閉ざさざるを得ない構造について明かした。

(参考記事:韓国警察の脱北女性への性暴力が横行、組織的な隠蔽も

また、脱北女性団体の未来韓半島女性協会のナム・ヨンファ代表は、脱北女性が性暴力被害を受けるとメディアに大きく取り上げられるため、脱北者のイメージ悪化を恐れて黙ってしまい、加害者をつけあがらせることで、さらなる被害が生まれると説明した。

スンさんは、有名人でバックに国家情報院がついている張氏と戦ってもかなわないと諦めていたが、「自分のように被害に遭いながらも被害者であると認識できていない女性、声を出せずにいる女性がいる、韓国に来たばかりの脱北女性たちは自分よりもっと辛い目に遭っている、悪循環を絶たなければならない」と番組を通じて訴えた。