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冷戦時代、共産圏に住む人々が海外情報を得るために利用していたのは短波放送だ。西側各国は、電波が遠くまで届く特性を利用して、共産圏に向けて海外情勢、その国では禁じられている事件・事故・政治に関する客観報道、また娯楽など、様々な内容の放送を行っていた。

これに対して共産圏国家は、自国民の放送聴取を妨げるために、妨害電波を発信していた。これを「ジャミング」という。旧ソ連はボイス・オブ・アメリカ(VOA)、BBC、ドイチェ・ヴェレなどのロシア語放送にジャミングをかけていた。

北朝鮮も例外ではなく、韓国の公共放送KBSの国内向けの第1ラジオ、第2ラジオ、北朝鮮を含めた共産圏向けの社会教育放送(現韓民族放送)などに対して、ジャミングをかけていた。

韓国の北朝鮮向けラジオ局の国民統一放送は5日、昨年12月中旬から自局の放送にジャミングがかけられていると明らかにした。また、同局の受信状況を毎日モニタリングしている、韓国の国際放送専門家で東北アジア放送研究会のパク・セギョン理事長は「北朝鮮でジャミングをかけると、状況によってはソウルでも確認できる」「2日夜の放送から、確実にジャミングが確認できた」と述べた。

パク氏から国民統一放送に提供された音声ファイルには、放送内容が全く聞き取れないほどの激しいジャミングがかけられている。北朝鮮は、同局の周波数に狙いを合わせてジャミングをかけているというのが、パク氏の見方だ。

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ジャミングがかけられた国民統一放送の音声(提供:東北アジア放送研究会パク・セギョン理事長)

違法とされている韓国や海外からのラジオ放送を密かに聴取する北朝鮮国民は、どうせ聞くなら音質の良好なものにしたいと考える傾向があるため、ジャミングがかけられると聴取率が落ちると言われている。

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ジャミングの開始は、昨年12月の最高人民会議常任委員会第14期第12回総会での「反動的思想・文化排撃法」採択と軌を一にすることから、韓流の締め出しを狙った同法の具体的な施策の一環と思われる。

(参考記事:北朝鮮軍内で『愛の不時着』流行か…韓流取締を強化

国民統一放送は午前6時から7時、午後8時から10時の1日3時間、台湾の台北にある送信所をレンタルして200キロワットの大出力で送信しているが、短波は遠くに届くメリットがある一方で、ジャミングに弱い特性がある。

一方、中波(AM)放送はジャミングに強く、夜間なら遠くまで電波が飛ぶことから、北朝鮮向け放送を運営する韓国の各団体は、韓国政府に対して国内の中波放送の周波数の割り当てを要求している。しかし、公共の財産である周波数を特定の団体に割り当てても良いのかという主張があり、さらに韓国政府は南北関係のさらなる悪化を恐れ及び腰になっていることから、議論は進んでいない。

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北朝鮮は、国民が電力難に苦しむ中でもジャミングに大量の電力を費やし続けてきた。これに対する韓国政府の対応は、保守政権下では強気になり、進歩(革新、リベラル)政権下では弱くなることが繰り返されている。

(参考記事:北朝鮮、海外からの自国向け放送に対する妨害電波を強化

国民統一放送は、2010年から韓国の春川文化放送(MBC)に年間4000万ウォン(約378万円、イ・グァンベク代表が明らかにした額)のレンタル料を払い、中波で1日に2時間の放送を行っていたが、2019年に契約が終了し、それ以降は短波でのみ放送を続けている。

前述のVOAと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の北朝鮮向け放送は、韓国のキリスト教系放送局の極東放送(FEBC)の中波の2つのチャンネルを使い、1日5時間ずつ放送を行っている。

(参考記事:バレたら一巻の終わり…北朝鮮の女性兵士が葬られた「禁断のラジオ」