金日成氏は、北朝鮮建国前の1947年、平壌に革命家遺族学院を設立した。抗日パルチザン活動中に命を落とした人たちの子どもを教育し、「赤い貴族」とも呼ばれる国を支えるエリートを養成する機関だ。歴史と格式を誇る万景台(マンギョンデ)革命学院を頂点に、女子専門の康盤石(カンバンソク)革命学院、セナル革命学院など、全国に複数の学校が存在する。
かつてより枠は広がったとは言え、誰もが入学できる状況にないことに変わりはない。革命烈士、愛国烈士と呼ばれる功労者、朝鮮労働党、国家機関、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の幹部の子弟だけが対象となり、地元の党委員長、保衛部長(秘密警察)、安全部長(県警本部長)などによる審査を経て、入学が推薦される。
権限のあるところにカネが飛び交うのが北朝鮮の常。ここでも、「お受験」ならぬ「汚受験」が横行している。黄海南道(ファンヘナムド)では、革命学院受験をめぐり、一騒動が起きていると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
黄海南道では先月24日、革命家遺児を革命学院に推薦する事業の審査が行われた。対象となった子どものうち、6人が保衛部長の激しい反対で、万景台革命学院ではなく、ワンランク下の南浦(ナムポ)革命学院への入学を推薦することとなった。
いずれも成分(身分)に申し分のない家の出だったが、保衛部長は直系家族に問題人物がいるとの理由を挙げて、強く反対したのだった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面(参考記事:【徹底解説】北朝鮮の身分制度「出身成分」「社会成分」「階層」)
この決定に強い不満を抱いた6人の親は、決定を覆すべく行動に出た。保衛部長が不正行為を行ったと「信訴」を行ったのだ。
信訴とは、公務員による不正行為を告発するシステムだ。訴えられた側が逆襲されたり、訴えが途中でもみ消されたりすることもあり、決して気軽に使えるものではない。子どもを革命学院に送れるほどの家族と言えども、保衛部に妨害されかねないと判断したのだろう。こんな手法を使った。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「南浦革命学院に行くことになった子ども6人のうち、2人の母親が代表で信訴の手紙を書き、朝鮮労働党黄海北道委員長の家の前で2日間待って、直接手渡した」(情報筋)
(参考記事:「訴えた被害者が処罰される」やっぱり北朝鮮はヤバい国)訴えの内容とは、保衛部長が6人の書類を偽造して、万景台革命学院ではなく、南浦革命学院に行くように細工したというものだ。その裏では、他の受験生の家族から400ドル(約4万1000円)から1000ドル(約10万3000円)のワイロを受け取り、実力不足にもかかわらず、万景台革命学院への推薦を出したという、衝撃的な告発だ。
党委員長はすぐに問題の検討に入り、信訴の内容を真実と認定。6人の子どもには問題がなく、むしろ保衛部長の決定に問題があったとの結論を出した。保衛部長は党委員会での思想検討(激しい批判)を受け、大佐から上佐に降格され、党からの厳重警告を受けた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ただ、党委員会はこの事案が中央党(朝鮮労働党中央委員会)に知られると、党委員会も追求を受け、党委員長の責任問題に発展しかねないとして、黄海北道の内部で穏便に済ませようとしているとのことだ。
北朝鮮ではこのような「汚受験」が蔓延している。何らかの大会に国や地域の代表として出場する子どもを選ぶとなれば、選考過程で札束が飛び交う。最高学府の金日成総合大学の受験問題ですら、ブローカーを通じてカネさえ払えば入手できてしまうのだ。
無事入学できたとしても、進級、論文審査、卒業にあたって様々な「費用」が求められるのは、言うまでもない。
(参考記事:試験問題がおおっぴらに取引される北朝鮮の「汚受験」)