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北朝鮮の北部、慈江道(チャガンド)で今年夏から発熱、下痢などの症状を伴った伝染病の感染が広がっている。新型コロナウイルス感染症であることが疑われるが、まともな検査も、患者に対する治療も行われておらず、その実態は闇の中だ。

現地のデイリーNK内部情報筋は、今年7月から発熱と下痢の症状を伴った伝染病が広がり、8月中旬から9月初旬にかけて道内すべての地域に拡散、病院は患者で溢れかえっていると伝えた。高齢者の死亡率が非常に高く、患者全体の3割に達している。

川を挟んで中国と向かい合う慈江道で、何か悪いことが起きれば「中国から来た」と言われるものだが、今回の感染については「南朝鮮(韓国)から来たのではないか」と疑う声が上がっている。実際、中国に面した満浦(マンポ)ではなく、北朝鮮の内陸地方に面した熙川(ヒチョン)、東新(トンシン)、松源(ソンウォン)などから感染拡大が始まったというのだ。

しかし、慈江道は韓国から直線距離でも200キロ以上離れている上に、軍需工場が密集しており、人々の移動が非常に厳しく制限されている。それを考えると「韓国発」という噂はにわかに信じがたい。

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ただ、全くありえない話とも言えない。

熙川(ヒチョン)に隣接する平安北道(ピョンアンブクト)の香山(ヒャンサン)は、外国人観光客も多く訪れる妙香山(ミョヒャンサン)を有し、首都・平壌を経て、韓国にほど近い開城(ケソン)まで高速道路でつながっている。このルートは、平壌から慈江道の道庁所在地で軍需産業の集積地である江界(カンゲ)に向かう主要経路だ。

今年7月に、脱北者が開城に違法に再入国する事件が起き、新型コロナウイルスが韓国から持ち込まれたのではないかとの懸念が高まり、開城に対して封鎖令が発せられた。この元脱北者の感染状況について何ら発表がなく、慈江道の人々の間で疑念が広まっている。

(参考記事:開城に続き北朝鮮両江道の一部もコロナ対策で完全封鎖

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そんな状況だが、当局は先入観にとらわれて積極的な対応を行っていないようだ。情報筋によると、中央からやって来た25人の医師が患者の診察を行ったが、病名をハッキリさせず、中国語ラベルが貼られた薬を処方しただけで、帰っていったという。

その薬とはパラチフスとインフルエンザの治療薬だ。中江(チュンガン)、慈城(チャソン)、渭原(ウィウォン)など中国との国境に面した地域では、パラチフスが流行しており、慈江道内の他の地域に広がる伝染病もパラチフスを判断したようだ。

衛生状態の悪い国で多く発生する細菌性感染症のパラチフスは、北朝鮮の各地で流行しているありふれた病気だ。

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情報筋は医師が検査を行ったか否かについては触れていないが、「大雑把な診断」との表現を使っていることから、検査は行っていないようだ。症状が明らかなら必ずしも検査を行う必要はない。しかしたとえその必要性が認められたとしても、新型コロナウイルスの国内での発生を公式には認めていないため、検査設備があったとしても、検査を行う行為そのものが政治問題化しかねない。

正確とは言えない診断に基づく処方は副作用の問題をもたらしうるが、それでも薬がもらえただけでまだマシだ。多くの人は市場で薬を買って服用したり、個人経営のクリニックで治療を受けている。貧しい人々は一切の治療が受けられずにいる。

「社会主義無償治療制という国で薬がなくて薬がなくて死んでいく人々を見守るしかない。皆が胸を痛めながらも何も言えずにいる」
「薬を買えなかった人々は、大雨の日でもおじいさん、おばあさん(の遺体)を土葬して葬式をしている。自分たちの身の上を嘆きながら泣く人も多い」(情報筋)

憲法にも謳われた「無償治療制」だが、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」を前後して機能不全に陥っている。ただ、軍需工場の多い慈江道の特性上、制度は曲がりなりにも機能していると言われていたが、現実には他の地方と変わらないようだ。

(参考記事:「咸鏡北道など各地でコロナ死者発生」北朝鮮の内部資料