北朝鮮では、人口の約4分の1にあたる600万人以上がスマートフォンを含む携帯電話を所有しているというデータがある。
スマホには様々なゲームソフトがインストールされているが、その中の一つが「宝石娯楽」。テトリスから始まり、コラムス、ぷよぷよなど、現在に至るまで世界中で不動の人気の誇るジャンル、「落ちゲー」(落ち物ゲーム)の一種だ。
(参考記事:人気は「グラセフ」「FIFAオンライン」…北朝鮮の若者もゲーム中毒)この「宝石娯楽」の開発者が逮捕されたと、平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。それも「国家転覆」の容疑をかけられたというから穏やかでない。
ことの発端は、今月12日に朝鮮コンピュータセンター(KCC)が、ゲームのアプリ10種をリリースしたことだ。
アプリは有料で販売されているものだが、新型コロナウイルスの感染拡大防止策として移動規制が強化される中、ゲームの需要が増え、コロナ不況打開の糸口として開発が進められた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面その読みが大当たりし、ゲームは、首都・平壌のトンジュ(金主、新興富裕層)や若者を中心に大ブレイクした。北朝鮮のネットでは、サイズの大きいファイルのダウンロードをリアルタイムでできないため、サイトにはダウンロード待ちの人が殺到した。それも、今回初リリースとなった3種類より、既存のゲームのアップグレード版7種類の方が人気だった。
ところが、リリースから1週間後の19日、思いも寄らぬところから横槍が入った。秘密警察、国家保衛省がスマホユーザーに対し、「宝石娯楽」を削除せよ、さもなくば処罰するとの警告を発したのだ。各地の技術奉仕所(パソコン、携帯電話販売店)やイントラネットのサイトは、アプリの販売を中止した。
国家保衛省はまた、KCC所属のプログラマーでゲームの構成を担当した20代後半男性のチョさんを秘密裏に逮捕した。それも容疑は「国家転覆陰謀罪」だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面刑法第60条(国家転覆陰謀罪)
反国家目的で政変、暴動、示威、襲撃に参加したり陰謀に加担したりした者は、5年以上の労働教化刑に処す。罪状の特に重い場合には、無期労働教化刑または死刑および財産没収刑に処す。
ゲームを作っただけなのに、処刑の危機に瀕しているということなのだ。処刑は免れたとしても、管理所(政治犯収容所)送りになる可能性もある。
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ところが、国家保衛省はアプリの削除命令を出したものの、どこにどのような問題があったかに言及しなかったため、かえって市民の好奇心を煽ってしまったという。
さて、問題点はどこにあったのだろうか。実際にプレイした人は、アップグレードに際して変更となった、ゲームのBGMやキャラクターに問題があったと見ている。
「ゲームの内容や形式は既存のものと変わらないが、音楽やキャラクターがすべてわが国(北朝鮮)のものではなく、赤い旗思想を脅かすの判断したのではないか」
BGMが日本風で、キャラクターデザインが「天使」を思い起こさせる感じの女性というのが問題になったのではないか、ということだが、おそらく後者の問題がより深刻だろう。天使は、北朝鮮当局が忌み嫌い、激しい弾圧を加えているキリスト教を想起させるものだからだ。
(参考記事:「禁断の書」を持っていた北朝鮮女性、密告され処刑)このゲームに問題があるのなら事前差し止めもできたはずだが、国家保衛省もKCCも、リリース前には問題視するどころか、むしろBGMを「地に足をつけ世界を見よ」という朝鮮労働党の思想にふさわしいとの評価を下していたというのだ。
情報筋は「好評価を得て(検閲を)パスしたのに急に反国家陰謀罪容疑で逮捕されるなんて、当事者どれほど悔しいだろうか」「ゲームで住民に不穏思想を扇動したと見なしたものだが、若い人材がまた犠牲になってしまった」と嘆いている。