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北朝鮮では、すべての国民が国から住宅を無償で得られることになっている。

住宅法第3条「人民の住宅問題を国が責任を持って円滑に解決するのがわが国社会主義制度の本性的要求だ。国は現代的な都市住宅と農村住宅を国の負担で建てて人民に保証する」

住宅に入居するには、各地域の人民委員会(市役所)から居住権を証明する「国家住宅利用許可証(入舎証)」を受け取る。これを売り買いする形で、不動産の取引が行われている。「住宅は無償提供」は「建前」に過ぎないのだ。

北朝鮮当局は不動産売買を黙認、場合によっては便宜を図ることもあったが、ここに来て態度を一変させ、取り締まりに乗り出したという。一体どういうことなのだろうか。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、政府が先月26日に各道、市、郡の人民委員会の都市経営部と住宅管理課、社会安全省(警察庁、旧称人民保安省)に対して、国家所有の住宅を個人が勝手に売買する現象を完全に「焦土化」、つまり根絶やしせよとの指示を下したと伝えた。

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個人間の住宅の売買は「国家が建てて人民に供給した住宅を、私利私欲のために売買するのは破廉恥な行為で、社会主義を抹殺する行為」(政府の指示文)だというのだ。

具体的には、都市経営部の承認なしに家をリモデリングしたり構造を変えたりする行為、隣家を買い取って自分の家とくっつけて家を広くする行為などが取り締まりの対象で、罰金刑や労働鍛錬隊(軽犯罪者を収監する刑務所)送りするという厳しいものだ。

(参考記事:北朝鮮軍最高の部隊が作る「韓流ドラマ風マンション」の中身

同時に、都市経営部の職員が不動産業者や富裕層に対し、ワイロと引き換えに違法に入舎証を発行したり、未記入の入舎証の用紙を束で譲渡したりするなど、住宅の売買を黙認、助長して、権限を利用して私腹を肥やす行為も「非社会主義的」として、厳罰に処す方針を示した。

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つまり今回の措置は、現在行われている不正腐敗取り締まりキャンペーンの一環という側面もある。同時に、家を売って生活費を稼がざるを得ないほど貧しい人々に対する対策でもあるようだ。

「生活が極度に厳しくなり家を売ってでも生き抜こうとする人が増えて、不動産ブローカーも忙しそうにしていたが、政府はそういう事情を把握した上で、取り締まり令を下したようだ」(情報筋)

このような状況を放置し、国民の不満が高まることを恐れたようだが、逆に言えば、こうした人々は生活費を稼ぐ「最後の手段」を奪われたとも言えよう。

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不動産ブローカーや家を売買しようとしていた人たちは、見せしめとしてひどい目に遭わされることを恐れ、おとなしくしているという。しかしほとぼりが冷めればまた、不動産市場は復活するだろう。市場なしでは国家も住宅建設を進められないからだ。

北朝鮮で住宅建設を行うには次のような手法が使われる。当局は住宅を建てようとするが予算がない。そこで、住宅の一部を分譲する条件で投資を募る。投資した人は、その住宅を売り払って儲け、当局は住宅建設という成果を示せるというわけだ。朝鮮労働党系列の会社などは、この過程で生じる許認可手続きなどを一気に引き受けるサービスを行っていた。

(参考記事:金正恩の党が「ワンストップ建設会社」に乗り出したワケ

不動産の取り引きを厳しく取り締まれば、このような形での住宅建設ができなくなってしまう。つまり、国民に住宅が供給できなくなるのだ。一方で、この方式の問題点もある。

金正恩党委員長は2018年、中国との国境に面した新義州(シニジュ)の再開発プロジェクトを発表したが、不動産が値崩れを起こし、損害を被ったトンジュや幹部などの投資家をなだめる目的があったのではないかという見方もあった。

なぜ値崩れを起こしたのか。それは建設される住宅の多くが庶民の手には届かない高級マンションで、購入できる人が限られているのに、どんどん建てられて供給過剰に陥ってしまったからだ。同国では「儲け話」が非常に限られていて、大金を儲けるには不動産投資くらいしかないことが影響している。

(参考記事:金正恩氏の「都市再開発メガプロジェクト」発表で不動産価格が急騰