北朝鮮「赤い貴族」の性暴力…被害女性が処分され、加害者は昇進

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朝鮮民主主義人民共和国が建国する前日の1948年9月8日に施行された初代憲法は、11条で次のように定めている。

朝鮮民主主義人民共和国の一切の公民は、性別、民族別、信仰、技術、財産、知識の程度の如何を問わず、国家、政治、経済、経済、社会、文化生活のあらゆる部分において同等の権利を持つ。

草案には「一切の公民は法の前に平等」というくだりがあったが削除された。その理由は定かではないが、この11条もその後の憲法からは姿を消した。現行憲法では65条で「公民は国家社会生活のすべての分野で誰もが同じ権利を持つ」と定めているが、権利の同等は謳っていても、平等という言葉は一切出てこない。

その理由を巡っては様々な推測があるが、北朝鮮の現実が平等であるどころか、否定されたはずの身分制度が社会の基礎をなしていることに疑いの余地はない。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、その身分制度の壁にぶち当たり、理不尽極まりない処分を受けた女性の話を紹介した。

清津(チョンジン)の裕福な家庭に生まれた24歳の女性は、師範大学を卒業後に軍に入隊、軍幹部を養成する金日成政治大学に入り、労作(金氏一家の著作)講座の教員として働いていた。

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軍に入るのは、高級中学校(高校)卒業後の18歳が一般的で、24歳で入隊するのは極めて特殊なことだ。父親の財力と権力が相当なものであることがうかがえる。そこまでにして軍に入った理由は、朝鮮労働党の党員になるためだ。

かつてほどの威信はないとは言え、北朝鮮で政治エリートになるには、入党が欠かせない。

(参考記事:朝鮮労働党員はエリートも今は昔…「結婚するなら党員じゃなくて金持ち」

彼女は、将来の女性幹部を夢見て誠実に任務に取り組んでいたが、入隊から2年経った先月中旬、私的な都合で講義を数回休講にした後、急に軍を辞めると言い出した。彼女の行動、言動に不審を抱いた同僚は、彼女が妊娠したことを知った。

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すぐさま調査に入った大学の政治部は、彼女が大学班学生大隊の政治指導員(少佐)から性暴力を受け、妊娠させられたことを突き止めた。その経緯について情報筋は触れていないが、北朝鮮では軍のような閉鎖的な環境に置かれた女性が性暴力被害に遭うことが非常に多い。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

しかし、加害男性は何ら処分を受けなかった。

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加害男性の曽祖父は、金日成主席の父親、金亨稷(キム・ヒョンジク)氏が立ち上げに関わった抗日武装キリスト教団体、朝鮮国民会のメンバーだったのだ。また、祖父も戦争老兵、つまり朝鮮戦争の参戦者だ。抗日パルチザンの家柄は「赤い貴族」で、保衛部(秘密警察)だろうが党だろうが、そう簡単に手が出せる相手ではないのだ。

(参考記事:【徹底解説】北朝鮮の身分制度「出身成分」「社会成分」「階層」

大学政治部は、どういうわけか被害者である女性に責任をなすりつけ、軍服務期間中の妊娠は不適切だとの理由で、女性に対して除隊の処分を下した。その上でこんな暴言を吐いたのだという。

「行いが悪いから起きたことだ。生活除隊(不名誉除隊)のレッテルを貼られなかっただけでもありがたいと思え」

生活除隊となれば、その記録が文書として残り、今後の昇進において制約を受ける。真相追及の責任を投げ出したのに、お情けで生活除隊だけは免じてやったというふてぶてしさだ。

大学は、事件揉み消しに対する批判の声が高まることを懸念してか、加害者を総政治局に異動させたが、どういうわけか一階級昇進した。

失意の女性は実家に戻ったが、近隣住民からは「軍で間違いを起こして党に入れず除隊させられた」「軍隊に行かない方がよかった」などと陰口を叩かれ、両親ともども顔を上げて表を歩けない状況となっている。

被害についての噂が住民の間で広がっているかは不明だが、「性暴力の被害に遭ったのは、女性の落ち度」と考える傾向が強いとされる北朝鮮の風潮を考えると、噂が広まれば清津では暮らしていけなくなるだろう。

すべての人が同等の権利を持っていると謳っている国で、身分制度の壁に阻まれ、加害者の処罰はおろか、むしろ被害者が処罰される。これが北朝鮮の現実だ。

(参考記事:「私たちは性的なおもちゃ」暴露された金正恩時代の性暴力