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北朝鮮当局は今年5月、17年ぶりとなる公債の発行に踏み切った。国際社会の制裁やコロナ不況で深刻化する一方の外貨不足を打開するのが目的だ。

北朝鮮が発行したのは、国家機関公債と国家貿易公債の2種類の公債だ。全体の6割に当たる国家機関公債は、通貨の流通量を抑制するため、工場、企業所、機関の間での決済で現金の代わりに使わせている。

また、残りの4割の国家貿易公債は、外貨タンス預金を国庫に吸収するために、トンジュ(金主、新興富裕層)や幹部に「押し売り」している。同時に、公債を買わせるために、国内での外貨使用禁止令も出した。

「公債などいつ紙くずになるかわからない」と購入したがらない人が多いようだが、従わなければ処刑するといった非常に極端な形の押し売りも行っていたと伝えられている。

(参考記事:「公債買わない」と公言した鉱山主を処刑…北朝鮮の秘密警察

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デイリーNKの内部情報筋は先月、発行を担当する朝鮮中央銀行が計画量の半分を発行したところで、1回目の総和(総括)を行い、通貨流通量の抑制には効果があったと評価を下しつつ、残りは取り引きの状況を見て発行可否を決定すると伝えている。

ところが、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じたのは真逆の情報だ。売れ行きはおろか、そもそも発行すらされていないというのだ。

平壌の貿易機関の幹部はRFAの取材に、「割り当てられた公債があるのなら買う用意がある」としつつも、公債発行は計画が立てられただけで実行されておらず、自らが勤務する貿易機関には公債が1枚も届いていない」と証言した。そればかりか、公債の売り上げを集計する中央と各道、市、郡の公債委員会すら立ち上げられていないというのだ。

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平安北道(ピョンアンブクト)の別の情報筋によると、道内の貿易会社には公債発行に関する情報は伝えられておらず、「(国内で最も豊かな)平壌の経済ですら最悪の状況になりつつある中で、当局が無利子の公債を発行して、(国内にダブつく)外貨を買い入れるだろう」との見方が示されていることを伝えた。一方で、「中国がバックについているので、実際に発行されるかはもう少し様子を見なければわからない」とも述べた。

ただ、公債発行の噂は広く出回ったようで、外貨を買い占める動きが起き、当局が取り締まりに乗り出したとの情報も伝わっている。

(参考記事:「奪われるなら全て燃やす」国家に“反逆”した北朝鮮女性の末路

「当局が公債発行を計画して、既に発行しているならば、5000北朝鮮ウォンの公債を超えて、1万北朝鮮ウォン、5万北朝鮮ウォンの公債が出ているはず」

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こう述べた別の平壌の貿易関係者は、公債が市中に出回り始めたとすると、悲劇的な結果を招きかねないと危惧を示した。

「2003年に公債が発行された当時の最高額紙幣は1000北朝鮮ウォンだったが、5000北朝鮮ウォンの額面の公債が発行され、市場の物価が高騰した」

つまり、貨幣の流通量が増えたのと同じ状況となり、激しいインフレが引き起こされたというのだ。2020年の北朝鮮経済は、国際社会の制裁、新型コロナウイルス対策で苦境に立たされているが、この状況で公債を発行するとなれば、一時的には外貨を国庫に吸収する効果があっても、2003年と同じくインフレが起きかねないという説明だ。

インフレは、北朝鮮の人々にとっては恐怖の記憶そのものだ。

金正日氏は2009年、なし崩し的に進む市場経済化を食い止めて経済の主導権を国の手に取り戻すために、貨幣単位を100分の1に切り下げるデノミネーション(貨幣改革)を断行した。新券交換にあたって、地下経済に蓄積された富を収奪するために新券交換の額には上限を設けた。

その結果、全財産を失った人たちが暴動を起こし、市場からは売り惜しみで物資が消え、餓死者が続出するなど、国は大混乱に陥った。この事件は、北朝鮮の人々にとってトラウマとなっていて、当局が金融に関する何らかの措置を行うたびに当時の恐怖が脳裏をよぎるようだ。