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韓国観光公社の統計によると、2019年に海外に出国した韓国人は2871万4251人だった。海外旅行が自由化された翌年の1990年には156万人だったが、急速な増加を続け、2005年に1000万人、2015年には2000万人を突破した。韓国の人々にとって、海外に出ることはもはや特別なことではなくなった。

一方の北朝鮮だが、依然として海外への出国は夢のまた夢で、一生に一度あるかないかのビッグチャンスだ。その数少ないチャンスに恵まれる人々の多くは、中国に住む親戚を持った人々だ。親戚に会うための出国は「私事旅行」と呼ばれる。

面倒な手続きに多額のワイロが必要とはいえ、出国のチャンスを得た人たちは、それを最大限に利用する。期限の60日を大幅に超えてなかなか帰国せず、北朝鮮で売る品物を買い付ける人もいれば、畑や工場で働く人もいる。これに対し北朝鮮の保衛部(秘密警察)は、未帰国者を脱北者として扱い、指名手配するとの方針を示したと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、南新義州(ナムシニジュ)の保衛部が、5年前から昨年末までの時点で親戚訪問ビザを取って中国に出国し、帰国していない私事旅行者は、新型コロナウイルス対策で帰国できないという事情があったとしても一律に脱北者とし、指名手配して逮捕せよとの指示を下したと伝えた。

保衛部の調査の結果、出国した私事旅行者のうち帰国した人は半分に満たないことが明らかになった。彼らの多くは、中国で出稼ぎしているが、中には韓国に向かった人もいる。いずれも、北朝鮮に残してきた家族に仕送りをしている。

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保衛部は今まで、彼らの多くが帰国していないことを知らなかったわけではない。黙認する見返りに、仕送りをかすめとり、運営資金にしていたのだ。つまり、彼らにとって帰国しない私事旅行者は、重要な金づるだったわけだ。

(参考記事:金正恩氏も崩せない、秘密警察と送金ブローカーの共生関係

ところが、金正恩朝鮮労働党委員長の妹・金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長が脱北者と韓国を非難する談話を発表したのを機に、方針を急に変えたということだ。ちなみにこのような変更方針は、これが初めてというわけではなく、過去にもあったことだ。

(参考記事:出稼ぎで中国に不法滞在の北朝鮮労働者を秘密警察が連れ戻す

保衛部は、さっそく帰国を促すための作戦に乗り出しているようだが、強硬策がむしろ帰国を遠ざけてしまっている。

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昨年4月以来、中国に滞在している咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)出身のAさんは、RFAの取材にこんな話をしている。

17日、清津にいる母親から国際電話がかかってきた。北朝鮮から海外に電話をかけることはそうめったにあることではない。非常に驚いたAさんだったが、「党がお前を信じて中国に派遣したのだから、すぐに帰ってこい」と言う母親の声が震えていることに気づき、保衛部に強いられて電話したことがわかり、すぐに電話を切ったという。

「家族を食べさせるためにこうしている(帰国せずに働いている)のに。チュチェ(主体)思想は、自分の運命を自分で切り拓けという教えではないか。自分の力で儲けるのが目的だ。(北)朝鮮ではカネがなければ死んだも同然だ」(Aさん)

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「本心は、今すぐにでも故郷に帰りたい」というAさんだが、帰って商売をしても生きていくのは難しく、中国に残り、仕送りで家族を食べさせるしか術がない。

「国は必ず滅びるはずだ。そのときに備えて一所懸命にカネを稼ぐ」(Aさん)

北朝鮮はかつて、北朝鮮に残った脱北者の家族を山奥の協同農場などに追放していたが、「むしろ脱北を煽る」として、2018年に取りやめている。また、デイリーNKの内部情報筋は、「生活に忠実で落伍がなく、与えられた任務を誠実にこなした越南者(脱北者)家族を訪ねて激励せよ」との金与正氏の命令が、今月10日に各司法機関に下されたと伝えている。

(参考記事:北朝鮮が脱北者家族の「山奥への追放」を中止