盧武鉉大統領は10日、首脳会談の期間に金正日総書記に会った感想を語った席で、”金委員長はとても印象的だったし、やはり真の権力者らしい。自分たちの体制に対する明らかな所信を持っていた”と語った。

盧大統領は金正日総書記が国政に対して詳らかに理解していることに驚いたと言い、その国政掌握能力を高く評価した。30年以上、人々の意識さえも支配する首領独裁体制で権力を独占してきた金正日総書記が「真の権力者」らしくなければ、むしろおかしい。発言の行間には、絶対権力を維持する金正日総書記に対する好意的な感情も現われた。

脱北者たちは、「盧大統領が見た金正日総書記の姿が全てであると思ってはいけない」と言う。金正日総書記は権力には徹するが、国政で最も重要な住民たちの生活の問題には無関心である上、よく理解してもいないからだということだ。1996年から3年間続いた大餓死がこれを証明しているという指摘だ。

美女への執着

2002年10月に行われた大紅湍(テホンダン)郡の現地指導の際、金正日総書記が党組職の書記をその場で解任した事件が起きた。

この事件は両江道の住民の間で、金正日の即興的で冷酷な性格、そして女性に対する特別な趣向、美女に対する執着を表した事件として知られている。

この内容は最近、この地域出身の脱北者との接触を通じて証言を確保したもので、その証言が当時の労働新聞の報道と、日時と場所において一致することが確認できた。また、両江道出身の脱北者を通じて、こうした事実があったことを複数確認することができた。この内容は、この地域で政権機関や行政機関に勤務した脱北者たちには比較的よく知られた秘話だった。

2002年10月8日、金正日総書記が大紅湍郡の茂山地区進攻戦闘勝利記念塔を訪問した時に発生した事件だ。北朝鮮の労働新聞は訪問の2日後である10月10日に、金正日総書記が大紅湍郡を現地指導したと報道した。

当時新聞は、金正日総書記が労働党中央委員会の金国泰(キム・グッテ)、チョン・ハチョル、金己男(キム・キナム)書記らとともに、茂山地区戦闘勝利記念塔で撮影した写真を載せた。さらに、「ジャガイモ農業で大きな成果をおさめた大紅湍郡のジャガイモ農業に深い関心を向けなければならない」という金正日総書記の現地教示の内容も伝えた。

党書記の受難

だが、この報道の裏では、金正日総書記の即興的な荒っぽい性格が人々を驚かしていた。

この時、災難に遭ったのが両江道大紅湍郡の党組職書記(※注)だ。

(※注=郡の党委員会で、組織運営を担当している書記)

金正日総書記が大紅湍郡を訪問すると、ジャガイモ農業と地方の工業問題を報告するために、大紅湍郡の組職書記が金日成の銅像の前で待機していた。当時、大紅湍郡の責任書記だったキム・ジョンスルは赴任して間もなかった。

当時、北朝鮮の労働党の幹部たちは、金正日総書記の身なりや帽子、後ろに少し身を反らす姿勢まで真似なければならないと考えていた。特に、へつらっている幹部は金正日総書記の全ての行動を真似ようとする。

「お前は何者だ!」怒声に震える

組職書記はスピード出世のチャンスだと思い、満を持した。

金正日総書記に会うという興奮で、特別に身だしなみに気を使った。特に髪形を、当時幹部たちの間で流行していた「将軍様ヘア(パーマのかかった髪)」に変えた。

また、金正日総書記の機嫌を取るために、大紅湍郡革命戦跡地の解説講師の中から、特別美人の女性を選んで、花束を差しあげるように準備した。

金正日総書記の乗った車が大紅湍郡革命戦跡地の前に止まると、組職書記が興奮状態で車の前に駆け付けた。その時、かみなりが落ちたような声で体が硬直してしまった。

「おい! このやろう、お前は誰だ!」黒いサングラスに‘狩人帽子’を深くかぶった金正日総書記が急に大声を出したのだ。

待機していた随行員と護衛総局の職員も、予想できなかった金正日総書記のどなり声にざわめいた。金正日総書記の声が続いた。「お前はどこで働いていた奴なのか」 と大声を出す金正日総書記の前で、わけも分からず組職書記はぶるぶると震え、かぼそい声で答えた。

「はい…人民軍の軍官(将校)をしている途中に除隊して、すぐに軍の組職書記に配置されてきました」

「以前はどこにいたのか」
「… … …」
「その前は」(金正日氏)
「… … …」
「その前は」(金正日氏)

このように大声を出した金正日総書記は、のどが痛かったのか、自分の部下たちを振り向いて言った。

「地方幹部の頭を見ろ! パーマまでして…」

腹心たちもようやく、金正日総書記が怒鳴った理由を理解した。大紅湍郡の組職書記のヘアスタイルが問題になったのだ。

北朝鮮では風変りなヘアスタイルを、‘資本主義的な黄色物’と言って取り締まり、捕まれば労働鍛錬隊刑で処罰する。大紅湍郡の組職書記は金正日総書記と握手もできないまま、護衛総局の兵士によって連行された。

戦跡碑で金正日総書記を迎える郡の組職書記が逮捕され、郡の関係者たちはどうしたらよいか分からなかった。その時、雰囲気が突然変わった。組職書記を追いやって振り向いた金正日総書記の顔が突然明るくなったのだ。

金正日総書記は自分に花束を渡すために待機していた革命戦跡地の解説講師を振り返ってほほ笑んだ。そして講師に近付いて、花束を受け取った。

「やあ、きみの故郷はどこだね?」

握った手を離さず

明るくなった金正日総書記の表情を見て、解説講師はやっとほっとしたように、○○と答えた。

「きみの顔つきは本当にきれいだな! どうして5課(金正日総書記の親衛隊と喜び組を選抜する中央党幹部の部署)に来ることができなかったのかな」

金正日総書記は自分が今とった行動もすべて忘れたかのように、解説講師の手をずっと握っていた。

周囲の腹心たちが見ているのも全く意識していなかった。金総書記は解説講師の美貌と言葉使いを誉めて、背中までたたいて笑い続けた。

美女の頬をつねり…

個人的な女性の趣味は咎めることができないが、歓迎に出た郡の組職書記を現場で解任すると言った後、振り向くやいなや、女性解説員に向かって微笑む姿に、歓迎に出た郡の関係者たちは絶句した。だが、表情に出すことはできなかった。

金日成の銅像の前で大まかに解説を聞いた金正日総書記は、出発しなければならない時間になっても、解説講師と談笑を止めなかった。金総書記は解説講師の家族や住んでいる所などを聞いて話を続けていた。

随行員たちが「将軍様、出発のお時間です」と言った。金正日総書記は別れをいつまでも惜しんで、「やあ! きみはどうして5課に来ることができなかったのかい?」と再び聞いた。その後、彼女と2人で記念撮影をして、車に乗る時には解説講師の頬までそっとつねっていた。

「敬愛する金正日同志」が保つべき威厳は全く見られなかった。地方の関係者たちは、顔がほてり、立っているのさえ大変だったと、当時を振り返って本音を打ち明けた。

全国的な取締り

当時の労働新聞と民主朝鮮、青年前衛などの北朝鮮の報道を見ると、彼女と金正日総書記が一緒に撮った写真が大きく出ている。

この事件の後、大紅湍郡の組職書記は解任され、周辺の農村の農場員として働くことを指示された。

この時の大紅湍郡の組職書記のヘアスタイルは、中央党で流行していたもので、「将軍様ヘア」とまで言われていた。

北朝鮮には、「熱誠が悶着」という流行語があるが、こうした場合に使われる。

大紅湍郡の組職書記事件は、党の幹部はもちろん、一般の住民にまで災いを及ぼした。

美女と幹部の「複雑な関係」

安全員(警察)と労働者の監視隊(治安維持のために作った巡察隊)まで動員されて、全国的に金正日総書記のヘアスタイルを真似た人たちを全て取り締まった。

もともとくせ毛がある人も取り締まられて、何時間も苦労しなければならなかった。取り締まられた人たちは、通行量が多い通りに立たされた。また、職場に帰って来ても思想闘争の舞台に上がらなければならなかった。

金正日総書記が去った直後、5課から人がやって来て、花束を渡した解説講師を連れて行き、身体検査までした。だが、彼女が普段、幹部たちと複雑な私的関係を結んでいたことで、不合格にされてしまった。

盧大統領は金正日総書記に国政遂行能力があり、真の権力者らしいと言った。だが、そのカリスマは絶対権力と荒々しい暴力に依拠しているのだ。

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