「スルプン」。直訳すると「酒風」となるが、酒を飲んで騒いだりすることを指す北朝鮮の言葉だ。社会主義に反する行為とされ、国や社会を崩壊させかねないとして、取り締まりの対象となっている。

韓国で北朝鮮向け放送を行っている自由北韓放送は、北朝鮮の朝鮮労働党出版社が2005年9月に発行した7ページの文書を入手した。文書は、酒に関する誤った習慣を指摘している。

こんな酒の飲み方は間違っている

◯客の接待、病人の見舞いには酒が欠かせないという習慣

◯手術をしてもらった後に、医者に酒や食事を振る舞う習慣

◯時と場所を選ばず飲み会を行なう習慣

◯肉体労働、動員、出張、訓練の後に酒を飲む習慣

◯酒を飲みながら賭博をする習慣

◯業務時間に飲み会を行なう習慣

当局は酒風を放置すれば、旧ソ連同様の体制崩壊という結果を招くのではと恐れ、根絶を訴えている。時々、取り締まりに関する方針も下され、見せしめとして違反者を厳しく罰したりもするが、一向に根絶される気配はない。

(関連記事:金正恩氏が「飲み会禁止」を発令…「迫撃砲で処刑」との情報も

生活と食事に酒が密接に関係している上に、「酒量の多さが男の器の大きさを示す」という考えが根強い上に、娯楽が乏しく統制の厳しい社会であるため、「酒でも飲まなければやってられない」という考えの人が多いのだろう。

酒風が引き起こす典型的な社会問題が「舌禍」だ。最近、ちょっとした体制批判をした人が逮捕される事件が起きたが、逮捕されたのはそういった行為を取り締まる側の保衛員(秘密警察)だった。

平壌のデイリーNK内部情報筋によると、ロシアで活動している平壌市保衛部所属の保衛員は先月、帰国した際に同僚を酒を酌み交わしていた。2年ぶりの帰国とあって、相当酔っ払ったのだろうか。ちょっとした一言で大変な結果を招いてしまった。

この保衛員は「ロシアで世界中の酒を飲んだが、北朝鮮の酒は質がよくない」と発言した。北朝鮮製の酒の中には、とても良質なものもあるが、主に輸出に回され、国内で出回る酒の中には粗悪品が混じっているので、あながち間違った発言とは言えない。

(参考記事:金正恩氏「ニセ焼酎で公開処刑」事件で警察が動く

その場にいた誰かが密告をしたのだろう。翌日になって、別の保衛員が家に押しかけてきた。一般国民の発言などを取り締まる側の保衛員とて、取締の対象となるのが北朝鮮の相互監視の恐ろしさだ。

(参考記事:金正恩氏が頼りにする「密告部隊」100万人のネットワーク

「党の配慮で誰でも行けるわけでない外国に行ってきたというのに、資本主義の幻想にひたり、思想が堕落した」と告げ、保衛員を逮捕し、家宅捜索を行った。家には数多くの外国製品があったが、家族の着ている服まで含めて、すべての外国製品が没収された。また、どういうわけはロシアから持ち帰った洋酒の空き瓶まで没収された。

今回の事案は、一般国民なら、夜中に家族もろとも連れ去られ、収容所送りになることもありうる。また、収容所送りを逃れても、都市から追放され、僻地の協同農場の閑職に追いやられ、文明とは切り離されたところで一生飼い殺しの憂き目に遭うこともある。しかし、保衛員は1ヶ月近く取り調べを受けたが、今までの活動の成果が認められたことから、更迭や追放などはされず、海外派遣の対象から外されるにとどまった。

(参考記事:男たちは真夜中に一家を襲った…北朝鮮の「収容所送り」はこうして行われる

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