潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、生物化学兵器などに関連する教育と人材育成、開発に携わってきた、金正恩国防総合大学。学生は全員軍服を着用しており、学生証や教員の身分証には「朝鮮人民軍第825軍部隊所属」と記載されている。重要な秘密施設なので、一般の軍人と見分けがつかないようにしているということだ。

この大学の前身は、1964年に設立された国防大学だが、1960年代後半に北部の慈江道(チャガンド)の江界(カンゲ)に移転し、江界工業大学となった。ところが1990年11月、ミサイルを製造していた26号工場(表向きの名称は江界トラクター総合工場)が爆発事故を起こし、1000人以上が死亡する大惨事となった。これを受けて金正日総書記は、平壌郊外への移転を指示し、2016年には金正恩国防総合大学となった。

(参考記事:【目撃談】北朝鮮ミサイル工場「1000人死亡」爆発事故の阿鼻叫喚

平壌の中心部から北東に15キロほど離れた、龍城(リョンソン)区域の中二洞(チュンイドン)に位置するが、金正恩党委員長の命令がこの地域に混乱をもたらしている。

平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、朝鮮人民軍最高司令官(金正恩氏)が、金正恩国防総合大学を「特別衛戍区域」に正式に指定するとの指示を下したと伝えた。つまり、軍事区域に指定して、徹底的な秘密保持の対象とするということだ。

(参考記事:咸鏡北道楽園郡が特別衛戍地域に指定、一部住民に追放命令

情報筋は「2016年、2017年にも国防大学を最大の国家秘密基地にしなければならない」という元帥様のマルスム(お言葉)があったが、今回はそれより格上の最高司令官命令なので、徹底的な実行と報告が求められると説明した。

大学の党委員会は教職員、従業員、学生にこの方針を伝え、本庁舎、補助庁舎、講義室、病室などの学内に加え、キャンパス外にも監視塔が増強された。

衛星写真で確認すると、大学と中二駅の間のエリアには、数多くの低層マンションと平屋建ての民家が立ち並んでいる。主に大学関係者が住んでいるが、それ以外の住民もいる。彼らに対して事実上の「強制移住」命令が出されたのだ。

大学の党委員会の関係者は洞事務所(末端の行政機関)と連携し、対象となった家を訪ねて「来年の春までに出ていけ」と通告しているという。来年秋までは大目に見てもらえるようだが、「かつて大学に勤務していたが転職した人や、(大学勤務の)世帯主が亡くなった家族も引っ越しを迫られている」(情報筋)という。

突如としてそんなことを言われた人は絶句し、「国防大学は誰を守るためのものなのか」という嘆きの声を上げつつも、下手に抵抗すると平壌から追放されかねないと恐れているという。

この地域には、国防総合大学、軍需工場や拉致被害者が住まわされていると言われる住宅地などの数多くの秘密施設が存在するが、それだけではない。

韓国の北朝鮮向けラジオ局の自由北韓放送は2014年1月、平壌の情報筋の話として処刑された張成沢氏の側近幹部やその家族と思われる人々が大量にトラックに乗せられ、地域の奥にある68号軍需工場に連行されたことと、保衛部(秘密警察)が地域の一般労働者に見られないよう、立ち入りを制限していることを伝えた。つまり、この地域のどこかで処刑された可能性が考えられるわけだ。

(参考記事:金正恩氏が1千人を処刑し家族ら2万人を粛清か…脱北高官ら証言

情報筋はまた、68号軍需工場の裏山には保衛部の秘密アジトがあって、そこでは深化組事件の当時、徐寛熙(ソ・グァンヒ)中央党農業書記とムン・ソンスル中央党本部党責任秘書が取り調べられた上で、処刑されたと言われ、工場労働者はそばを通るのを嫌がるとも伝えている。

(参考記事:血の粛清「深化組事件」の真実を語る

かと思えば、中二駅の一つ手前の間里(カルリ)駅の周辺は、大風俗街となっている。最高軍事機密、処刑場、大風俗街が入り交じる、何でもありの地域のようだ。

(参考記事:風俗街へと変貌を遂げた「金正恩の都」の北の玄関口

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