高層ビルが立ち並ぶ北朝鮮の首都・平壌。市民の生活レベルは、北朝鮮のどの地域より高く、中進国の水準にあるとも言われている。他の地域では崩壊状態にある配給システムも、平壌ではなお、どうにか稼働していると言われてきた。
ところが、最近になってその平壌でも、配給が途絶えがちだとされる。
平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えたところによると、最近の配給内容と言えば、先月にトウモロコシ8割と、ベトナムが今年6月に援助物資として送ったものと思われる、インディカ米2割を混ぜたものが15日分出た程度。それも3ヶ月ぶりのことだ。
「住んでいるだけで特権層」とされる平壌市民ですら、この程度しか配給がもらえないということは、北朝鮮の食糧事情の深刻さを表していると言えるが、これも250万人の市民すべてがもらえたわけではないようなのだ。
北朝鮮で配給は、所属する工場、企業所、機関を通じて受け取ることになっている。今回、配給されたのは実際に勤めている本人の分だけで、家族の分までは配られなかった。それでも、もらえるものはもらっておこうという人々が長蛇の列を成したという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面配給におけるもう一つの基準は「居住地域」だ。どうやら、郊外に住んでいる人は配給をもらえていないようなのだ。平壌に住めるのは、成分(身分)がよく、思想的に問題がないと当局からお墨付きをもらった「選ばれし者」だけだが、その中でも差別がある。
平壌市は、18の区域と2つの郡から成るが、「30号対象」と呼ばれる市内中心部の6区域、「410号対象」と呼ばれる残りの12の区域と2つの郡のうち、配給がもらえたのはどうやら市内中心部だけだったようなのだ。
平壌市管理法は、次のように定めている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面第31条(居住承認) 地方から平壌市に、周辺地域から中心地域に(引っ越して)居住しようとする公民は、該当機関の居住承認を受けなければならない。
つまり、同じ平壌市内でも許可を得なければ自由に引っ越しできないということだ。東京に例えると、山手線の外側から内側に引っ越す場合には、都の許可が必要になるということだ。金正恩党委員長やその家族、朝鮮労働党や政府機関の幹部など特権層、富裕層が多く住む地域には、選びに選びぬいた人しか住まわせられないということなのだろう。配給がもらえたのは、そんな人々だけのようだ。
(参考記事:北朝鮮の首都「薬物中毒・性びん乱」で汚染の危機)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ただ、情報筋は「周辺区域に住む知人の中でも、配給を受け取ったという人がいる」として、居住区域ではなく何らかの別の基準を適用して配給を行う対象を決めているのではないかと見ている。
「中央党(朝鮮労働党中央委員会)の関連機関の勤務者は、上から商売を禁じられているので、(優先的に)配給を行ったのだろう」(情報筋)
中央党や関連する機関、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)などは、品位の保持、トラブルの防止など様々な理由で本人のみならず家族まで商売を禁じられている。つまり、当局からの配給だけに頼って生きてきた人々なので、配給を止めるわけにはいかない。しかし、「それだけでは生活が成り立たない人が多い」とも情報筋は述べている。
夫の部下に高級車を運転させて買い物三昧という幹部の妻もいる一方で、慎ましやかな暮らしをしている幹部もいるということだ。
(参考記事:「幹部の妻」につき合わされた北朝鮮軍少尉の悲惨な運命)平壌の隣で、経済的にも比較的恵まれている平安南道(ピョンアンナムド)では、さらに事情が深刻だ。
地方に住んでいても、優遇されていた保安員(警察官)、保衛員(秘密警察)など司法機関の勤務者に対する配給が円滑に行われなくなり、食べるものを確保するために欠勤する人が増加しているという。
(参考記事:配給停止で食糧確保に駆けずり回る北朝鮮の警察官)また、勲章を売り払ってコメに変えた件が大問題になる事件が起こるなど、食糧事情の厳しさを示す出来事が次から次へと起きている。
(参考記事:勲章を売り払ってコメを買う北朝鮮「英雄」たちの生活苦)