勲章を売り払ってコメを買う北朝鮮「英雄」たちの生活苦

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国際社会の制裁が、ただでさえ苦しかった北朝鮮国民の生活をさらなる苦境に追い込んでいることはデイリーNKジャパンでも何度も伝えているが、その状況がさらに悪化しているようだ。

今や儲かる商売はほとんどなく、違法な裏家業に手を出す人も増えているという。

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平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、中国からの輸入品の価格のみならず、国内産の製品価格も上昇傾向にあるため、消費心理が冷え込み、商売をしても全然儲からないとの話があちこちの商人の間から聞こえると伝えた。

昨年来上昇を続けている小麦粉、砂糖、油など中国からの輸入品の価格だが、消費者は国内産に切り替えることで耐え忍んできた。ところが、これらの原材料も元々は中国製であるため、時間差で価格が上昇した模様で、商人と消費者とを問わず「耐えきれない」との声を上げている。

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商人は、このような状況でも儲けが出やすい食品を扱うことで苦境をしのごうとしているが、同じことを考える人ばかりで競争が激化し、売り上げは芳しくないという。

北朝鮮の市場経済を牽引してきたトンジュ(金主、新興富裕層)も投資を手控えている。

北朝鮮で最も儲かる商売と言えば、マンション建設だったが、今では需要が冷え込み建てても売れず、損切のために原価を下回る値段で売りに出しているということだ。

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「かつて、大同江の水が枯れることがあっても、自分の懐からカネが枯れることはないと言われるほどの大金持ちだったあるトンジュは、このままではあっという間にコチェビになるかもしれないと言っている」(情報筋)

コチェビとはストリート・チルドレンやホームレスのことを指す。さすがに大げさかもしれないが、「トンジュたちは食生活、飲酒、接待費などの支出を減らしている」(情報筋)とのことで、制裁不況に危機感を感じているということだろう。

供給過剰などの理由で昨年から下落傾向にあった北朝鮮の不動産価格は、中国との国境に面する新義州(シニジュ)全体を再開発するという巨大プロジェクトなどの影響で持ち直す地域もあったが、今年2月にベトナム・ハノイで行われた2回目の米朝首脳会談が物別れに終わったことで、再び下落傾向となっている。平城の場合、昨年と比べて半分になっている。

(参考記事:北朝鮮で不動産価格急落、米朝首脳会談の決裂が影響

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生活苦は、国やに忠誠を誓う人にも例外なくのしかかっている。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋は、端川(タンチョン)市の検徳(コムドク)鉱業連合企業所のマグネサイトを産出する龍陽(リョンヤン)鉱山で、第2坑長を勤め、「労力英雄」の称号と第1級国旗勲章まで授与された人が、生活苦に耐えかね、勲章を売り払っていたことが発覚し、大問題になっていると伝えた。

国旗勲章とは、政治、経済、軍事など各分野で優れた功績を立てた個人や団体に授与されるもので、1級から3級までに分かれている。「共和国英雄」や「金日成勲章」には敵わないとはいえ、相当な社会的な名誉と言える。

この坑長は生産に寄与した功績を認められ勲章を受け取り、定年退職後は名誉坑長の称号も得られたが、もらえるものは1ヶ月に15日分の配給だけで、苦しい生活を送ってきた。

そして遂には、20キロのコメと引き換えに、知人の50代のトンジュに国旗勲章を売り渡したという。コメ20キロは現在の市場価格で計算すると10万北朝鮮ウォン(約1300円)に過ぎない。

好奇心と所有欲から勲章を買ったこのトンジュ、あちこちで見せびらかしていたところ、噂が広まり、朝鮮労働党の鉱山委員会(地方組織)に通報されてしまった。勲章は没収され、坑長に対しては勲章とすべての名誉を剥奪せよとの指示を下した。

坑長は党委員会に呼び出され「生活が苦しくろくに食事も取れなかったため、気の緩みから大罪を犯してしまった」との自己批判をさせられた。党委員会は、功績と年齢を考慮して法的処罰は行わなかった。

「余生も残り少ないのに、教化所(刑務所)送りにはならなかったとはいえ、一生の名誉をたったコメ20キロのためにおじゃんにしてしまった」(情報筋)は、周囲の人々は気の毒がっているという。

本来なら、国からの手厚い援助で悠々自適の老後を送れるはずの人たちが、路頭に迷う事例は、現在の北朝鮮においては枚挙に暇がない。

(参考記事:体はボロボロで家庭も崩壊…北朝鮮「負傷兵」たちの悲惨な末路