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北朝鮮の住宅法は、第3条で次のように定めている。

人民の住宅問題を国が責任を持って円滑に解決するのが我が国社会主義制度の本性的要求だ。国は現代的な都市住宅と農村住宅を国の負担で建てて人民に保証する。

すべての北朝鮮国民は、各地域の人民委員会(市役所)から居住権を証明する「国家住宅利用許可証(入舎証)」を得て、無償で割り当てられた住宅に住むことになっている。もちろん、これは建前に過ぎない。土地と建物の所有権は国が持つ一方で、この居住権が売買されるのが、北朝鮮の不動産市場だ。

この居住権の価格について北朝鮮当局は全面的な調査に乗り出したと、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。その目的は、不動産市場への介入だ。

北朝鮮の不動産市場には、すでにある住宅の居住権の売買以外にも、不動産開発という方法も存在する。

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小売から始め、貿易、流通、運輸などに進出し富を蓄積したトンジュ(金主、新興富裕層)は、不動産開発にも乗り出している。住宅を建てようにも予算を確保できない当局からの呼びかけに応じ、多額の資金を投資、その見返りにもらった部屋を売却して利益を確保する方式で、北朝鮮で最も儲かるビジネスの一つだ。

儲け話に飛びつくトンジュが増え、都市ではマンション建設ラッシュが起きたが、同国にはそもそも住宅を買えるだけの資産を持った人はさほど多くない。それなのに、実需をはるかに超える住宅が供給されたことに加え、国際社会の制裁による不況で不動産価格が暴落、市場に混乱が広がった。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、平壌で8万3000ドル(約886万円)で取引されていた100平米のマンションが5割から7割も下落。中国と国境を接する両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)や咸鏡北道(ハムギョンブクト)の会寧(フェリョン)でも3割ほど値下がりしている。

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(参考記事:下落が止まらない北朝鮮の住宅価格、最盛期の3分の1に

その状況を見て危機感を覚えた当局は、住宅価格の上限を決め、その範囲内で取引する安定したシステムを導入しようと目論み、調査を始めたというわけだ。つまり、一種の国定価格の導入だ。

(参考記事:国定価格表が呼ぶ憶測…金正恩氏は計画経済への回帰を目指している?

しかし、建築業者と売買業者からは懸念の声が上がっている。

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当局の住宅価格統制は、短期的には住宅価格の安定化にある程度寄与しうるが、統制が厳しくなれば違法な取り引きが急増し、価格の不安定化が進むというものだ。それよりも、市場の原理に任せたほうがいいというのが業者の言い分だ。

北朝鮮当局は2009年に住宅法を改正し、個人の利益を目的とした住宅(居住権)の売買、交換を禁止した。一時的に価格は急落したものの、しばらくするとヤミでの売買が再開され、価格が統制できないほど暴騰する結果をもたらした。2005年にも同様の試みが行われたが、失敗に終わっている。

1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」以降、なし崩し的に経済が資本主義化することを快く思っていなかった金正日総書記は、貨幣改革(デノミネーション)を含め様々な政策でブレーキを踏んだ。経済の主導権を国の手に取り戻そうとしたわけだが、いずれも失敗している。そのせいか、金正恩党委員長は市場への介入を積極的に行ってこなかったのだが、最近は方針を変えつつあるようだ。

ちなみに、デイリーNK内部情報筋が、不動産価格暴落前の昨年4月に調査にしたところによると、平壌市中心部の中区域の外城洞(ウェソンドン)の230平米のマンションは30万ドル(約3200万円)、平壌の郊外にある寺洞(サドン)区域サムコル洞の30平米の住宅は700ドル(約7万4600円)だった。1平米あたりの価格で比べると、約57倍の差だ。

また、都市別でも価格に大きな差がある。首都・平壌が最も高く、次いで平壌郊外の流通の中心地の平城がその半分程度の価格だ。それ以外にも、中国との国境に面した新義州、北朝鮮第2の都市の咸興、平城と並ぶ流通の要衝である清津の住宅価格が高い。一方で、軍需工場が多く事実上の閉鎖都市となっている慈江道(チャガンド)の江界(カンゲ)の住宅価格は、平壌の20〜30分の1に過ぎない。

(参考記事:北朝鮮、軍需工場の稼働を一部停止か

北朝鮮各都市の中心部と周辺地域の住宅価格と格差(2018年4月、デイリーNKの調査)
北朝鮮各都市の中心部と周辺地域の住宅価格と格差(2018年4月、デイリーNKの調査)