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朝鮮半島を南北に分断する軍事境界線上にある板門店で30日、3回目となる米朝首脳会談が開催された。トランプ大統領が軍事境界線を越えて北朝鮮側に越境した後、金正恩党委員長と共に再度軍事境界線を越えて韓国側に入り、会談そのものは強烈なインパクトを与えたが、米朝交渉の再開はまだこれからだ。

先日の中国の習近平国家主席の北朝鮮訪問など、膠着状態に陥っていた朝鮮半島問題が急激な動きを見せる中、浮足立った北朝鮮の貿易関係者が中国側にフライドチキンビジネスを持ちかけていたと、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

平壌の貿易関係者はRFAの取材に、習近平氏訪朝の後、中国の業者に次のような提案をしたと語った。

「平壌市内中心部にある3階建ての建物を、フライドチキンの店にするつもりだ。資金は中国が投資して合弁事業を行って、収益は山分けしよう」

さらには「可能であるならば朝鮮と中国が合弁した株式会社の形で発展させる意向もある」「平壌市内の各区域や地方都市にも進出する」などと付け加えたという。

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事業計画書にはすでに中央から許可を得た旨が記入されており、「中国との合弁を企画している専門レストランの建物は、平壌の現在の不動産価格で計算すると25万ドル(約2700万円)の価値があり、米国の経済制裁が解け海外からの投資が入ってくれば、賃貸価格は何倍にも上昇するだろう」と口説いたという。

このフライドチキン、実は韓国発のアイテムだ。

朝鮮戦争中に米軍から韓国にもたらされたフライドチキンだが、高度成長期の1980年を前後して、甘辛いタレに付けて揚げた韓国風のものが登場し、それが韓国系米国人の手によって米国に逆輸出されるほどになった。

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そんな韓国風フライドチキンを北朝鮮に持ち込んだのが、かつて韓国で100店舗を超えるフライドチキンチェーン店を経営していた「マッテロ・チョンダク(期待通りの味の田舎鶏という意味合い)」のチェ・ウォンホ社長だ。

チェ社長は、ハンギョレ新聞とのインタビューでその顛末を語っている。

チェ社長は2005年に鶏肉の輸入の件で訪朝した際に、現地の関係者から「フライドチキンビジネスをやらないか」というオファーを受けた。2007年に5億ウォン(当時のレートで約4000万円)を投資し、収益を7割を受け取る契約を結び、2007年に富裕層が多く住む平壌の北塞(プクセ)通りに、北朝鮮初の韓国式フライドチキンの店「楽園鶏肉専門食堂」をオープンさせた。

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1羽1万2000ウォン(約950円)という北朝鮮庶民にはとても手が出ない高級品だったが、上流階級や中国人に飛ぶように売れた。年間売上は1億ウォンを見込み、100店舗展開を夢見ていたが、そこに暗雲が立ち込めた。南北交流に後ろ向きな李明博政権が誕生したのだ。

実際、北朝鮮の店舗との行き来に支障が出て、政権誕生直後の2008年3月に南浦(ナンポ)店に材料を届けたのを最後に交流が途絶え、2010年の韓国政府の対北朝鮮独自制裁「5.24措置」により完全撤収を余儀なくされた。それから4年後、ようやく訪朝できたチェ社長が目にしたのは、見る影もなく普通の食堂に変わり果てていた平壌1号店の姿だった。

1店舗を除いて店舗をすべて手放し、すってんてんになったチェ社長だが、この店が北朝鮮に与えた影響は決して小さくなかったようだ。

「南朝鮮(韓国)の食堂が廃業した後も、平壌では南朝鮮式フライドチキンや辛い鶏の足、アヒルの燻製などが流行した。今でも平壌の大学生や若者の間ではフライドチキンを食べてビールを飲む南朝鮮式チメク文化が流行し、フライドチキンは大衆的な食べ物として急速に定着しつつある」(平壌の貿易関係者)

そのフライドチキン人気を盛り上げたのは、北朝鮮に密かに持ち込まれた韓流ドラマと映画、バラエティだ。今では高級店はもちろんのこと、道端の売台(プレハブ形態の店舗)でもフライドチキンを売るようになっている。しかし、いずれも規模が小さくメニューの数も少ない。そこで浮上したのが、フライドチキンチェーン店という合弁事業というわけだ。

(参考記事:北朝鮮初の「ビール祭り」から見えた意外な事実

「様々な種類の鶏肉料理と種類を販売する平壌のフライドチキンショップは、北朝鮮で資本主義形式で運営される初めての大型飲食店(チェーン店)となるだろう」(貿易関係者)

夢を語るのは自由だが、現実はそう簡単ではない。

国連安全保障理事会は2017年9月11日に採択した制裁決議2375号で、国連加盟国に北朝鮮との合弁、外資企業の閉鎖を義務付けている。また、中国商務省はその直後に、中国企業に北朝鮮との合弁企業を閉鎖せよとの通告を出している。つまり、今の時点での合弁事業は不可能だ。

平壌の幹部も「中国がいくら北朝鮮を支援すると大口をたたいても、米国の経済制裁の前では元気がない」と語り、制裁が解けていない現時点での合弁事業に懐疑的だという。

エジプトのオラスコム社は2008年、北朝鮮に合弁企業コリョリンクを設立し、同国で初となる携帯電話事業を始めた。しかし、利益の国外持ち出しをめぐり当局を対立、一時は撤退も噂されていたが、昨年9月に国連安保理から「公共事業だから」という理由で制裁の対象外とする許可を取り付けた上で、事業を継続中だ。

北朝鮮当局は1ドル100北朝鮮ウォンの公式レートで利益を計算することを求めたが、実際のレートは8200北朝鮮ウォン(当時)。衣類、海産物など「モノ」が存在するビジネスならともかく、飲食業、サービス業など北朝鮮国内で事業が完結するものは、私有財産や利益持ち出しの保証がない限り、進出は非常にリスキーだ。それは、たとえ制裁が解除されたとしても変わらない。

(参考記事:エジプト・オラスコム社、北朝鮮での携帯電話事業を継続