危機の金正恩、強制動員で「日照り戦闘」開始

今年の北朝鮮も日照りが深刻な模様だ。

北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は先月14日、「日照り防止対策を徹底的に立てよう」という記事を1面に掲載し、今年も深刻な日照りが予想されるとして対策キャンペーンを始めた。

気象水門局の専門家の話として、1月から5月15日までの全国平均降水量が56.3ミリで平年の39.6%に過ぎず、1917年以来最も少ないと伝えた。また、5日の労働新聞は黄海南道(ファンヘナムド)の貯水池の水が4割もないと伝えている。幸い、18日の朝鮮中央テレビは東北部を除く全国で雨が降り、多いところでは60ミリを超える雨量となっていると伝えたが、根本的な解決には至っていないようだ。

また、米海洋大気庁(NOAA)は4月後半から5月12日にかけて撮影された衛星写真を1週間単位で分析し、朝鮮半島とその周辺の「干ばつ指数(Drought index)マップ」を作成した。上に掲げた最新のマップ(5月6~12日)を見ると、朝鮮半島北部の多くの地域が「深刻」を表す赤色で染まっている。

言うまでもなく、干ばつは農業生産に大きな影響を与える。すでに北朝鮮国内からは、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」を彷彿させるような現象が生まれていることが伝えられ始めている。

当局は、国際社会の目を気にしてこのところ控えていた公開処刑を再開した。「苦難の行軍」の時期にも、食い詰めた人々が窃盗などに走るのを抑制しようと、当局は公開処刑を数多く行った。

(参考記事:美女2人は「ある物」を盗み銃殺された…北朝鮮が公開処刑を再開

また、北朝鮮で売買春が拡大したのも当時のことだと言われる。そして今、制裁の影響で収入を得る道を閉ざされた人々が、性売買ビジネスに身を投じ始めているという。

(参考記事:コンドーム着用はゼロ…「売春」と「薬物」で破滅する北朝鮮の女性たち

当局が対策として立てたのは、強制動員だ。その実情を平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えている。

最近、農村周辺の道路には臨時の哨所(検問所)が設けられた。その理由は「通行人を農場への水やりに投入するためのものだ」(情報筋)という。

農場への水やりに工場、企業所、機関の労働者を動員する「日照り戦闘」が始まって1ヶ月が立ったが、当初当局が計画したとおりの人員が集まらなかった。おりからの食糧不足で動員を避けようとする人が多いためと思われる。

そこで市人民委員会(市役所)は保安署(警察署)と合同で検問所を設置し、幹部と保安員(警察官)を立たせて、むりやり農場に連れて行くというものだ。

金正恩党委員長は次のように述べている。

「党の呼びかけとあらば、一心になって立ち上がり、山も動かして海を埋める奇跡を絶えず想像するのがわが人民の闘争の伝統であり気質です」

しかし、最高指導者の言うことすら聞こうとしない人が多く、強制動員に乗り出したということだ。

(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命

保安員は通行人に公民証(身分証明証)の提示を要求、所属機関を確認した上で、「仕事をすべき時間に仕事をせずに何をしているのか」と言いがかりをつけ、農場に連れて行くというものだ。

北朝鮮の行政処罰法は90条で仕事をしないこと、無断欠勤を続けることを違法とし、処罰の対象と定めている。つまり、「遊んでいるなら仕事をしろ」と強制動員するのにはそれなりの法的根拠があるということだ。

(参考記事:北朝鮮の鉱山労働者、無断欠勤で刑務所送りに

ノルマは畑の5畝に水やりをすることだ。バケツを手に持ち、井戸や用水路、ため池で水を汲んで畑まで運ぶ。ノルマを達成してようやく放免となるが、「仕事をした」ということを示す確認証を受け取らなければ、次の検問所でまた連行されてしまう。

北朝鮮の農業機関での勤務経験を持つ脱北者は、過去にも通行人に難癖をつけ、農場や建設現場に送り込むことがあったと述べた。

「燃料不足で揚水機が円滑に使えない上に、人員の動員もうまくいっていないので、通行人でも捕まえて強制動員しようということだろう」

しかし、北朝鮮農業が抱える根本的な問題を解決しない限りは、「日照り戦闘」は延々と続くだろう。

韓国農漁村公社農漁村研究員のキム・グァンホ氏は、MBCの番組で北朝鮮の農業の問題について、用水路の壁が土で固められていることで水が漏れること、寿命が6〜70年と言われる貯水池のメンテナンスが資材不足などで行われず貯水能力が発揮できないこと、そして、1970年代から進められた「全国土段々畑化計画」を挙げた。

金日成主席は1974年、農業生産向上のために山を切り拓いて段々畑を造成することを指示した。それに基づき、全国の山に段々畑ができたが、深く根を張らないトウモロコシを植えてしまったため、雨がふるたびに土砂が流出。また、連作を続けたため、土地が痩せてしまった。不作となり、海は白化を起こし、ダムには大量の土砂が流れ込み、貯水量や発電量が低下した。

それが度重なる自然災害を発生させ、90年代末の大飢饉「苦難の行軍」へとつながっていく。人々は生き残るために、さらに山を切り開き、畑を作り、山の荒廃が更に進んだ。

金正恩氏はその問題に気づき、山に木を植える「全国森林化計画」を進めているが、農民から畑を奪って苗木を植える強引なやり方や、苗木の横流しなどで遅々として進んでいない。また、制裁で農業支援も進んでいない状況だ。

(参考記事:北朝鮮「植樹戦闘」用の苗木、安値で中国に輸出される

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