農繁期を前にした北朝鮮の農場から、農民の流出が止まらない。理由は簡単。儲からなく生きていけないからだ。当局は、強制力を持って農民を農場に連れ戻しているが、焼け石に水だ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
その舞台となっているのは、平壌の南にある穀倉地帯、黄海北道(ファンヘブクト)の鳳山(ポンサン)だ。現地の情報筋によると、農場を出て西隣の沙里院(サリウォン)などで、トンジュ(金主、新興富裕層)に雇われて住宅建設や物流ビジネスに携わる農民が増えている。
現地の協同農場では数年前から圃田担当制が行われている。農場の土地を農民個人に委託し、インセンティブを与えることで、農業生産を増大させようというものだ。余剰農産物は農民個人が市場で売ることで現金収入になるはずだが、システムが上手く働いておらず、何年経っても暮らし向きは楽になるどころか、食糧問題すら解決できていない。
座して死を待つか、利率200%に達するヤミ金に手を出すか。そんな選択を迫られた農民が、次から次へと逃げ出しているというわけだ。
(参考記事:利息200%の借金地獄で生きる北朝鮮の農民たち)出稼ぎに出る前に、他人に土地を貸し与えるのならまだマシだが、農地をほったらかしにして都会に出てしまう人もいる。農村管理委員会は、土地を剥奪すると脅かしているが、一向に収まる気配がない。それどころか、「都会で働いて稼いだカネで穀物を買って農場に収めればいいだけの話」だと反発している。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面問題は、国が定めた農業生産のノルマの達成如何だけではない。放棄された畑が増えれば、農場幹部の責任問題に発展し得る。そこで協同農場は、地元の保安署(警察署)と合同で、都会で働く農民を捕まえて農場に連れ戻す合同作戦を展開している。
しかし、ほとぼりが冷めれば、農民はまた都会へと出ていってしまうだろう。
「今の農民は賢くなっており、党に言われたとおりに農業ばかりしていては貧しさから抜け出せないということをよくわかっているため、なんとかして農村を抜け出すことばかり考えている。それで農場作業班の組織力が弱くなっている」(黄海南道の情報筋)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面金正恩党委員長は「農業戦線は社会主義を守護する主打撃前方(前線)」だとして、農業生産を増大させるよう指示を下しているが、今の農民はお上の言うことに従おうとしない。
政府は司法機関に命じて、農民を雇うトンジュを取り締まらせることにした。農民であることを知りながら10日以上働かせれば、党の農業政策を妨害する敵対行為として処罰するというものだ。つまり、政治犯に問われかねないということだ。
そもそも、なぜ農民が食えないのか。ある農場を例に挙げて説明しよう。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面内閣の国家計画委員会は、この農場に対して前年の収穫量を元に、6000トンの計画収穫量、つまりノルマを課した。しかし、現場での現実的な収穫目標はその6〜7割だ。計画収穫量は、農場幹部が前年に行った虚偽報告の、水増しされた数字を元に設定されているのである。水増しせずに正直に報告すれば、計画未達成で幹部は処罰されてしまう。
天変地異で収穫量が減ったとしても、国は元々の計画収穫量の3割を強制的に買い上げる。価格は1キロ240北朝鮮ウォン(約3円)と、市場価格の20分の1以下というタダ同然の値段だ。収穫量の残りから諸経費分、翌年の種を除いた部分は農民に分け与えられるが、その量は期待していたほどにならない。かくして、いくら一所懸命働いても、1年分の食糧にもならないのだ。
国が虚偽の数字に基づき、現実とかけ離れた計画収穫量を農村に推し続ける限り、農民の暮らしが楽になることはなく、いくら止めても脅迫しても、次から次へと都会に出てしまうだろう。