2月28日までベトナム・ハノイで開かれた、2回目の米朝首脳会談。合意に失敗した結果については、まだ北朝鮮国内には広まっていないと思われるが、事前の期待は高いものがあった。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋は会談が始まる前、現地の期待の声を伝えていた。

「制裁で中国との交流が難しくなり、外貨稼ぎと貿易部門のイルクン(幹部)の苦しみが大きい。今回の会談で封鎖(制裁)が解決して貿易が円滑になってほしいと望む声が多く聞こえる」

「首脳会談のニュースに市場(の商人は)は期待感を持っている。商売が以前のようにうまくいかないので、よくなることを望んでいる」

一方、平安南道(ピョンアンナムド)の内部情報筋は、南北首脳会談や1回目の米朝首脳会談のときは大人も子どもも大騒ぎしたが、その後に特段の変化がなかったとして、全般的にさほど期待は大きくないと伝えた。

一方、北朝鮮経済をリードするトンジュ(金主、新興富裕層)は、改革開放に期待を持ちつつも、不安を感じていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が伝えた。

(参考記事:北朝鮮で「サウナ不倫」が流行、格差社会が浮き彫りに

平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋によると、新義州(シニジュ)を本拠地にして外貨を稼ぎ全国の市場を牛耳っているトンジュたちは「最高尊厳(金正恩氏)が米国の大統領に会いにベトナムまで行ったのだから、ベトナム式改革開放を朝鮮に導入する可能性が高い」と期待を見せつつも、こんな不安ものぞかせた。

「南朝鮮や米国など、国際的な投資が大規模に入ってくるのではないだろうか」(情報筋)

新義州は現在、金正恩氏がぶち上げた都市再開発プロジェクトで不動産バブルに沸いている。

現地のトンジュたちはその恩恵を十二分に受け、「濡れ手に粟」で潤っているだろうが、それでも世界的に見れば、自分たちの投資など「はした金」に過ぎないことをよく認識している。世界各国の巨大企業が北朝鮮に進出すれば、オイシいところは全て奪われてしまうのではないかと心配しているのだ。

「今までトンジュは、国家権力の庇護の下に国営工場に投資して儲けたり、貸金業を営んだりして、経済の流れをリードしてきたが、その主導権を失うことは明らかだ」(情報筋)

新義州のお隣、龍川(リョンチョン)の別の情報筋も、トンジュの抱えている不安を伝えた。

トンジュたちは、当局が共産党の独裁体制を維持しつつ海外投資を誘致し、経済を発展させた中国やベトナムの経済改革方式を自国に導入する案を研究していることを、現地の幹部から伝え聞いている。また、同じことを韓国のラジオを聞いて確認している。

「最近、米国のトランプ大統領が朝鮮と非核化の交渉がうまくいけば、金正恩氏が朝鮮を経済大国に発展させるだろうと発言したことを(韓国の)ラジオで知り、トンジュたちはかなり驚いた様子だった」(情報筋)

改革開放が始まれば国内に少なからぬ混乱や動揺が生じ、違法な手段で荒稼ぎしてきた自分たちが、命を危ぶむほどの状況に追い込まれるのではないかと心配しているというのだ。当局がゴタゴタを収拾して自分たちが生き残るために、トンジュを悪者扱いして粛清するのではないか、との懸念である。

トンジュたちは、利権を得ると同時に、命を守るためにお上にせっせとカネを貢いでいるが、どうあがいても最高指導者の手のひらの上で転がされていることには変わりないことを、よくわかっているのだ。

龍川の別の住民は、トンジュの不安を次のように伝えた。

「金持ちは戦争を怖がっている。今は金儲けするにはいい時代だが、情勢が変われば(すべてが)変わる。体制が変われば国はトンジュから先に処刑する」(ある一般庶民)

現地で密輸を行っているトンジュたちは、川の氷が溶けて密輸が再開できる春に向けて、船の整備に熱心だが、それも「万が一に備えていつでも脱北できるように準備しているという側面もある」(同上)とのことだ。

そんなトンジュたちは、会談失敗の報を耳にしたら、小躍りして喜ぶのだろうか。

    関連記事