北朝鮮の北部山間部で、20代の女性が自ら命を絶つ悲劇的な事件が起きた。しかし、その理由はあまりにも理不尽なものだった。

両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、事件が起きたのは2月中旬のことだ。普天(ポチョン)郡に住む27歳の女性が、山向こうに住む親戚の家に歩いて向かっていた。病弱な彼女は、親戚から市場で薬を買うカネを借りようとしていた。

中国との国境を流れる鴨緑江のそばにあるトンネルに差し掛かったときのことだ。女性はいつものようにトンネルを通ろうとしたが、保安員(警察官)に制止された。「幼稚園、小学校、中学校の通学用以外でしか通行は認めない」というのだ。

「不順勢力の爆破、ビラや落書きを防ぐ」というのが目的だという。たしかに過去、北朝鮮では最高指導者の記念碑などに対する破壊行為が発生しているが、それを恐れる北朝鮮当局の対応はパラノイア的だ。問題が起きたら、管理担当者も地方政府の幹部もタダでは済まされないからだ。そんなじょうきょうだけに、住民生活に与える影響など全く考えない。

(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命

トンネルを通れば10分の道だが、回り道をすれば少なくとも1時間10分はかかる。病弱な体を引きずっての山道は困難だ。女性は「体が悪いのでどうか通してほしい」と哀願したが、聞き入れてもらえなかった。

諦めて家に帰った女性は、絶望のあまり自ら命を絶とうと決めた。家族に発見されたものの、すでに手遅れだったという。

北朝鮮の自殺率は極めて高く、世界保健機関(WHO)の統計では、人口あたりの自殺者は世界で最も多い。生活苦とストレスフルな抑圧体制が理由と見られている。

(参考記事:世界「自殺率1位」の北朝鮮で、農村婦人がガソリンをかぶり…

保安署(警察署)は、女性が精神的な問題を抱えていたとの理由で、自殺ではなく病死扱いにした。そこには政治的背景がある。北朝鮮において自殺は、「最高指導者から授かり革命のために捧げるべき命を無駄にした」という理由で、犯罪とみなされるからだ。

(参考記事:北朝鮮で自殺者が裏切り者扱いされる理由とは?

光明星節(2月16日、金正日総書記の生誕記念日)、米朝首脳会談、国会にあたる最高人民会議の代議員選挙(3月10日)など、政治的に重要な行事が続き、特別警戒令が敷かれている中で自殺という「犯罪」が発生したとなれば、地方政府や保安署関係者までがその責任を問われてしまう。それを恐れて病死という扱いにしたものと思われる。

通行統制を巡っては、各地で様々な事件が起きている。同じ両江道の金正淑(キムジョンスク)郡では去年8月、金日成主席の夫人だった金正淑氏の銅像の警備を行っていた担当者が若者に殴る蹴るの暴行を加え、瀕死の重傷を負わせる事件が起きている。

(参考記事:金正恩氏「祖母の聖地」で半殺し暴力沙汰

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