北朝鮮では事実上自殺が禁じられている。自殺は国と金正日総書記に対する裏切りと見なされ、家族に迷惑をかけることになり、政治的な事件に発展する可能性すらある行為だ。

北朝鮮は、自殺にすら政治的な理由を求めようとするお国柄だ。将軍様から授かった命を自ら捨てる自殺は、将軍様への裏切り行為となる。党、祖国、首領、人民のために捧げた命は「高貴なる革命家の命」だが、自殺は「自らの政治的生命を汚し、党と首領の恩恵も知らない恥知らずな裏切り者」として見なされる。

そのため、北朝鮮の人々はいかに苦しくても自殺を避けようとしてきた。自殺者の遺族は反逆者家系とされ、政治的・社会的に葬り去られてしまう。

しかし、食糧難が深刻化した1990年代中盤に差し掛かり、大飢饉「苦難の行軍」の影響で生活が成り立たなくなり自殺する人が増えたことで、自殺者に対する社会的な偏見や無理解が徐々に薄れていった。国からの食糧の配給が途絶え、国に対する信頼が低下したことによるものだ。

最も自殺が多いのは60歳前後の層だ。一人暮らしの人もいるが、ほとんどは子どもはいるが生活苦で面倒を見てもらえず、絶望して自殺を選ぶ人だ。子どもが裕福でも、疎遠となったため面倒を見てもらえず、老後を悲観して自殺する親もいる。

平安南道(ピョンアンナムド)の价川(ケチョン)では、60代前半の男性が自ら命を絶った。息子が5人もいるが、だれも年老いた父親の面倒を見ようとしなかった。

父親の遺した遺書には「指の指紋がなくなるほど一生懸命に働き、息子を育てたが、年老いた私を誰も面倒を見ようともしない。だから、自殺を選ぶしか選択肢がない」と書かれていたという。

当局は未だに自殺者を反逆者、裏切り者として扱っているが、一般国民はそのような扱いをすることはない。昨年の貨幣改革(デノミネーション)後、経済が悪化し自殺者が増えているが、一般国民はそんな彼らを偏見の目で見ることはない。これも、国の言うことは疑ってかかるという、今の北朝鮮国民の心の変化と言えよう。

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