北朝鮮の北部山間地域に位置する両江道(リャンガンド)の三池淵(サムジヨン)郡。朝鮮民族の霊山である白頭山を擁するうえ、金日成主席がかつて抗日パルチザン活動を行ったことになっている地で、二重の意味で北朝鮮の「聖地」だ。

そんな三池淵でビッグイベントが開催された。朝鮮労働党機関紙・労働新聞は11日、光明星節(16日、金正日総書記の生誕記念日)祝賀・氷の彫刻祭典が始まったと大きく報じた(20日で終了)。

金正日氏を称える作品を中心に、経済発展など国の政策を宣伝するものや、自然や動物、伝統文化をかたどったものなど数多くの作品が展示されている。かつては大陸間弾道ミサイル(ICBM)をかたどった作品も登場したが、情勢の変化を受けてか、姿を消している。

そんなビッグイベントだが、地域住民は恨めしく思っている。

氷の彫刻の制作に当たった人民保安省261連隊について、記事では次のように言及している。

人民保安省連隊の指揮官と隊員は40日あまりの間、昼夜を分かたず戦闘を繰り広げ、千数百トンの氷と4000トンあまりの雪で、50種2000点あまりの氷の彫刻を立派に創作した。

ところが、次のくだりが住民の怒りを誘った。

216師団の指揮官、突撃隊員、白頭山地区革命戦績地、革命史跡踏事者、三池淵郡の人民と青年学生が祝典の場を見て回った。

地域住民は単なる見学者され、その苦労には全く触れられていないからだ。

デイリーNKの内部情報筋は「氷の彫刻祭典は将軍様の生誕記念日最高の誇りとなった」としつつも、「住民たちが氷点下20度の寒さの中で、川から氷を切り出したり、お金を寄付したりしたことは一切語られていない」と述べた。

イベントを主管する三池淵郡人民委員会(郡庁)は、地域の工場、企業所、地域住民に対して「祖国を誇れるような様々な形の氷の彫刻を制作せよ」と指示を下した。

工場、企業所の労働者は、終業後に松明を持って川べりに向かい、氷を切り出す作業を続けた。人民班(町内会)は、100キロから2トンに達する氷の塊を献納するために、製氷業者から氷を購入した。

「氷は1トンあたり100元(約1650円)から250元(約4100円)で購入した。小さい氷の塊は川べりでつるはしで割ってのこぎりで切って納めた」(情報筋)

それ以外にも加工に必要な設備、工具の購入、氷の彫刻を制作する人民保安省の連隊に送る食品、衣類などの物資を確保するために、職場では従業員1人あたり8000北朝鮮ウォン(約104円)から1万2000北朝鮮ウォン(約156円)を徴収した。

ただでさえ地域住民は、金正恩氏が旗振り役となって進められているメガプロジェクト・三池淵開発で、動員されたり募金を強いられたりされ、クタクタになっている。そこに、貢献が無視されるという仕打ちが重なった。はらわたが煮えくり返るのも無理はないだろう。

さすがに当局もまずいと思ったのが、住民をモノで慰めることにした。この数年間中断していた、旧正月(5日)の特別配給を復活させたのだ。1世帯あたり酒1瓶、お菓子500グラム、食用油は家族1人あたり200グラムで、大した量ではないが、住民の評判は悪くない。特に貧困に苦しむ人たちは「これで年が越せる」と喜んだという。

情報筋は「あれだけ苦労したのだから当然のことだ」と述べているが、「モノでつられるなんて情けない」と内心思っているのかもしれない。

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