今年の旧正月は2月5日だった。この前後、朝鮮半島や中華圏では連休に入る。北朝鮮では連休にならないものの、旧正月当日は祝日だ。楽しいはずの旧正月だが、北朝鮮の人々に必ずしもそうではないようだ。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

新義州(シニジュ)在住の華僑はRFAの取材に、人民班(町内会)の会議でこんな荒唐無稽な指示が下されたと憤慨した。

「旧正月期間中にむやみに集まって飲んで歌って踊ることを禁止する」

住民の間から「それをするための旧正月なのに、何をしろというのか」(情報筋)という反発が上がったのは当然のことだろう。この馬鹿げた指示は「非社会主義、反社会主義現象根絶キャンペーン」の一環だという。

非社会主義的現象とは、文字通り北朝鮮が標榜する社会主義の気風を乱すあらゆる行為を指す。最新のヘアスタイル、ファッションから、賭博、売買春、違法薬物の密売や乱用、韓国など外国のドラマ・映画・音楽の視聴、ヤミ金融、宗教を含む迷信の流布に至るまで、様々なものが含まれる。

これらのうち、体制を揺るがす危険性の強いものが反社会主義扱いとなるようだが、一般国民に詳しい説明がなされていないようだ。そのため「どうせまた幹部連中が庶民からワイロを搾り取ろうとしているのか」(情報筋)と受け止めるという。

実際、旧正月のみならず、新正月、秋夕(チュソク、旧盆)などの前にも取り締まりが強化される。階級がなくなり、すべての人が平等に暮らしていることになっている北朝鮮だが、実際はお上が庶民を締め付けて絞り取ったワイロを、上へ上へと吸い上げることで成り立っている国だからこそ起こる現象だ。

取り締まりの権限、許認可権を持った人は、庶民からありとあらゆる理由でワイロを受け取る。そのワイロは生活費にもなると同時に、上役への上納金ともなる。受け取った上役はさらにその上役に上納し、最終的には平壌の政権上層部に吸い上げられるという仕組みだ。

旧正月や秋夕などに際しては、普段の上納金以外にも中元、歳暮のようにワイロを贈る。上役の覚えがよくなければ今後の出世に関わるからだ。ワイロの値上げ、取り締まりの強化は、このような資金の確保のために行われているのだ。そんな事情も庶民はお見通しというわけだ。

グルパ(取り締まり班)による深夜の抜き打ち家宅捜索も横行している。彼らは真夜中に土足で家に踏み込み、一切の説明をせずに家中を引っ掻き回すという。おそらく「あの家には韓流ドラマのソフトがある」といった事前情報を元に捜索を行っている模様だが、そんなことをされてはたまったものではない。

中国丹東の情報筋によると、丹東と新義州の間で荷物を運ぶワンボックスカーの料金が最近になって2倍近くに跳ね上がったという。旧正月を前にして、北朝鮮の税関職員が通関検査の名目で普段より多くのワイロを要求するのが理由だ。

その集金システムの頂点にいるごく一握りの人々は、北朝鮮の一般庶民とはかけ離れた贅沢三昧の生活をしている。

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