国内のすべての生産手段は国有化されていて、各工場は国家計画委員会の定めた計画に従って原材料を受け取り、生産を行う――世界最後の共産主義国家とも言われる北朝鮮は、そんな計画経済体制を維持してはいるが、あくまでも建前に過ぎない。
1990年代から発達を始めた市場主義経済は、ときには国から妨害され、またあるときには国から奨励されつつ、着実に発展を続けてきた。もはや民間資本の存在なくして、北朝鮮経済を語ることは不可能だ。
(参考記事:北朝鮮で「民間企業」が年々増加…「食堂の3分の2は民間経営」)その中心にいるのは、トンジュ(金主)と呼ばれる新興富裕層だ。5万ドル(約547万円)から10万ドル(約1094万円)の資産を保有するトンジュは、全人口の約1%に当たる24万人に達すると、韓国国家情報院は推計している。
トンジュの中には貸金業に投資する者もいれば、もはや形だけとなった国営企業に変わって製造業に乗り出す者もいる。水産業の盛んな北東部の清津(チョンジン)では、トンジュの経営する造船所が登場している。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が説明したやり方は、次のようなものだ。
まず、国営の造船所に設備を貸して欲しいと話を持ちかける。国から資金も原材料も得られず開店休業状態だった造船所は、運営資金を得るためにトンジュの話に乗る。そして、鋼板などの材料を仕入れ、労働者を雇入れ、3トンから5トンの漁船を建造する。完成品は、国営造船所のものよりも性能がいいと評判は上々だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮には清津以外にも南浦(ナムポ)、新浦(シンポ)など40数か所の造船所が存在するが、金正日総書記の提唱した先軍政治の影響などで、民生用船舶の建造はないがしろにされてきた。技術面からも資材供給の面からも、中型の貨物船の建造するのがやっとで、小型の漁船は二の次三の次扱いだった。
金正恩党委員長は水産業の発展に力を入れているが、まともな船がなかったため、北朝鮮の漁師たちは木造船に身を預け遠洋に向かわざるを得ない状況にある。
そこに現れたのが、トンジュが経営する民間の造船所だ。地元政府も水産関係者も歓迎している。単純に漁船の数が多ければ、その分水揚げが増えるからだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「船は造船所で作ることになっているが、最近では個人が作るようになっている。(当局も)喜んでいる。国が許可して建造した漁船同様に、品質検査も行っている」(情報筋)
一方で、トンジュは偽物の韓国製の衣類の製造にも乗り出している。
まず、対象となる韓国製の服をほどいて寸法を測る。次に中国との国境に面した羅先(ラソン)で中国人業者から服地を仕入れる。そして、自宅の倉庫を工場に改造し、日本製の発電機や機械設備を運び入れ、生産を行うという流れだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面清津には、北朝鮮随一の卸売市場と言われる水南(スナム)市場があり、そこを通じて偽物の服が北朝鮮全土に売られていく。
韓国製品の販売、流通、所有はご法度だが、当局は韓国製のコピーであることを知ってか知らずか、服の生産が行われていることを非常に好意的に見ていて、奨励しているとのことだ。
デイリーNKは、中国の丹東に韓国ブランドを含む様々な衣類を激安価格で販売する北朝鮮ショップが登場したことを報じたが、上記のような工場で製造されたものである可能性がある。