北朝鮮には、1944年の完成当時に東洋最大と言われた水豊(スプン)ダムが存在する。かつてはこのダムで、北朝鮮の電力需要の一定以上を賄えていたが、その「成功体験」が同国の電力政策を狂わせてしまった。

降水量が少なく水力発電に向いていない土地柄なのに、同国内では多数の水力発電所が建設された。その多くが本来の機能を発揮できておらず、北朝鮮は長年にわたって深刻な電力難に苦しめられている。金正恩党委員長も、水力発電偏重の電力政策を捨てきれずにいるようで、今年の施政方針演説「新年の辞」でも次のように言及している。

国の電力問題を解決することを全国家的な事業としてとらえ、漁郎川(オランチョン)発電所と端川(タンチョン)発電所をはじめとする水力発電所の建設を推し進め、潮水力と風力、原子力による発電能力を将来を見通して造成し、各道・市・郡では地元の様々なエネルギー資源を効果的に開発、利用しなければなりません。

(参考記事:金正恩氏が発表した「新年の辞」全文

せっかく作った水力発電所だが、様々な理由で稼働できないことも多い。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、両江道(リャンガンド)の三水(サムス)発電所は、ダム壁の隙間から水が漏れて発電できなくなってしまった。ダム壁はコンクリートではなく、砂利と小石を積み上げただけのもので、少しの亀裂がダムの崩壊に繋がりかねない。

この発電所が問題を起こしたのは、今回が初めてではない。

ある恵山(ヘサン)市民は2010年6月、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の取材に、この発電所が当初計画の5万キロワットではなく、2万キロワットの発電機2台しか設置されておらず、大安(テアン)重機械工場の設計ミスで1万2000キロワットしか発電できていないと証言した。

また、2014年5月にはダム壁から漏水し稼働が止まってしまった。補強工事を行い稼働が再開したが、それから5年も経たずにまた漏水が起きている。

そんな体たらくに不満の声を上げているのは、地元三水の住民だ。発電所の建設により郡内の多くの農地が水没することになったため、生まれ育った地域を離れ移住を強いられた彼らだが、そんな犠牲を払ったのに発電所が度々問題を起こしていることに対して失望している。彼らは、発電所の設計者と施行者の責任だとして処罰を要求する請願を行うなど、直接的な行動に乗り出している。

この発電所の問題の原因は、質より工期を重要視する北朝鮮版やっつけ仕事「速度戦」にあると思われるが、気候の問題も大きい。

(参考記事:若者の命を次々と飲み込む...北朝鮮「呪われた巨大発電所」の実態

この地域は、雨の少ない朝鮮半島の中でも最も、特に降水量が少ない地域だ。昨年12月の降水量はわずか9.8ミリだった。ソウルの16.4ミリ、釜山の59ミリ、東京の44ミリと比べれば、その少なさは歴然だ。

また、平均最低気温は氷点下2.2度だ。現地出身の脱北者は、寒さでダム湖が氷結し、発電に問題が生じることがよくあったため、投資に見合った発電ができるのかと疑問を呈している。

水力発電所が機能不全に陥ったのも、今回が初のケースではない。両江道(リャンガンド)を流れる川、西頭水(ソドゥス)の白頭山英雄青年発電所はダム壁崩壊などにより可動できなくなった。煕川(ヒチョン)1号発電所も同様だ。

(参考記事:金正恩氏肝いりの発電所、完成から1年半でも稼働せず

北朝鮮を長年苦しめてきた電力難だが、最近に入って大幅に改善したと伝えられている。ただそれは、水力発電所のおかげではなく、中国のおかげのようだ。

(参考記事:北朝鮮の深刻な電力難、中国の支援で緩和か

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