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北朝鮮の憲法は75条で「公民は居住、旅行の自由を有する」と定めている。しかし、現実は全く異なる。北朝鮮国民は、兵役や進学などの場合を除いて、生まれ育った場所から移動する自由を、お上の都合で強制移住させられたりもする。

統制が最も厳しいのは首都・平壌だ。当局は市内に住む障碍者を追放する措置を取っている。「あのような『種』が広がるのは良くない。1カ所に集めろ」という金日成主席の指示によるものだ。

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ところが1990年代の大飢饉「苦難の行軍」のころから、生き伸びる糧を求め、移動する人が急増した。例えば商人は、市や郡の境界線ごとに設置された哨所(検問所)にワイロを渡し、比較的自由に移動している。職にあぶれて鉱山、漁港などに出稼ぎに行く人もいる。何らかの事情で行き着いた先に住み着くことも自然な話だ。しかし当局は、そんな人たちの追放命令を下している。

北朝鮮当局は、中国との国境に面した両江道(リャンガンド)三池淵(サムジヨン)と恵山(ヘサン)の開発工事に絡み、当局は住民登録の再調査を進め、他地方の出身者を現地から追放する措置を取っている。

現地のデイリーNK内部情報筋によると、両江道の朝鮮労働党委員会と行政機関は今年はじめから、恵山で住民了解事業(住民登録の再調査)を進めている。それに基づき今月2日、恵山と金正淑(キムジョンスク)郡で「他地方出身者を元々居住していた地域に送り返せ」という指示を下した。

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この追放命令の対象には、国境警備隊での兵役を終え現地に住み着いた人々や、商人も含まれている。元兵士らは兵役を終えた後、故郷に戻らず、現地出身の女性と結婚し、この地域に住み着いた。兵役の期間中にできたコネを使い、合法・非合法の貿易に携わってきた人たちだ。

「この地域の住民の思想動向と犯罪を総合的に分析した結果、国境警備隊出身者が違法行為や非社会主義的生活様式を拡散させる最大の要因であった(ことが判明した)。彼らは故郷に戻らず定住、脱北や密輸を行ってきたがそれを根絶するのが目的」(情報筋)

この地域出身の脱北者によると、国境地域の脱北ブローカー、送金ブローカー、密輸業者の中に国境警備隊出身者が少なくないのは事実だという。

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三池淵の開発は、金正恩党委員長の肝いりのメガプロジェクトで、度々視察に訪れている。そのため、事件や事故を防ぐために、他地方出身者を所払いにしようとしているものと思われる。

果たしてこのような当局の強硬策は、芳しい成果を上げるのだろうか。

犯罪に加担したという明確な証拠がないのに、他地域出身という理由だけで追放するとなると、対象となる人々は生活基盤を失うだけでなく、家族とも生き別れになる可能性があるため、強い反発が予想される。そのため、見せしめとして少数の人だけが追放されるのではないかというのが情報筋の見立てだ。

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国内の移動制限が撤廃されるとの噂が北朝鮮国内で流れたことがある。それほど不人気な政策を今になって強化するような今回の追放令。上から言われたので実行してはいるが、あまり強く出られないというのが地方政府の本音ではないだろうか。

それだけではない。この地域の経済は、多かれ少なかれ密輸頼みで回っている。「白河の清きに魚の住みかねて元の濁りの田沼恋しき」というわけだ。

「他地方出身者が大勢やってくることをよく思わない人もいる。しかし、中国と接触してモノとカネを動かしているのは彼らだ。地域住民も幹部も、彼らがいなくなれば暮らし向きは悪くならざるを得ないだろう」(情報筋)