北朝鮮では、手抜き工事の横行などにより、建物の崩壊や建設現場での死亡事故が多発している。この9月中旬には、金正恩党委員長が視察した工場で深刻な事故が起きた。
(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故)金正恩氏は今年7月、北東部の咸鏡北道(ハムギョンブクト)で複数の現場を視察。その中のひとつ、清津(チョンジン)かばん工場を訪れた金正恩氏は、関係者に対して手厳しい批判を加えた。朝鮮中央通信は、その時の様子を次のように伝えている。
「最高指導者は、清津かばん工場を建設した時から1年半になるまでデザイン室も設けず、製品陳列室も汚いまま放っているのを見れば確かに道党委員会の活動に問題があると深刻に批判した」
(参考記事:金正恩氏、咸鏡北道で経済部門を集中視察…工事の遅れで内閣を叱責)きつい指摘に、関係者は震え上がったはずだ。金正恩氏は、管理不備でスッポンを死なせたとして、大同江スッポン工場の支配人を銃殺した前歴を持つからだ。
(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導)現地のデイリーNK内部情報筋によれば、かばん工場は金正恩氏の指摘を受けて施設の建て直しを進めていたが、その最中に事故が発生し多くの死傷者が発生したとという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面事故が起きたのは9月中旬のこと。工事途中に床が崩落する事故が発生した。多くの労働者が巻き込まれ、うち女性労働者4人が死亡、数十人が負傷した。10人は重傷だという。
今回の工事は、金正恩氏からの批判を受けて、中央党(朝鮮労働党中央委員会)が大慌てで指示したものだ。指示は「工場を建て直せ」というものだったが、咸鏡北道党委員会は、清津再生繊維工場の建物の一部を流用することで誤魔化そうとした。それもよりによって、金正恩氏が批判し行為を繰り返していたのだ。朝鮮中央通信は先述したのと同じ記事で、次のようにも伝えている。
「咸鏡北道党委員会は朝鮮労働党が次代教育事業をそれほど重視し、生徒・学生に必要なものを全てわれわれのもので与えるために発起した事業を疎かにし、かばん工場を能力に合わせて新たに建設すべきだという党の方針を丁重に受け入れず、清津再生繊維工場建物の粗末な部屋を空けてかばん生産拠点を汚く設けることによって、地方のかばん生産実態を調べるために訪れた最高指導者に大きな心配をかけた」
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面かばん工場の幹部は、重罰を免れないと見られている。事故を起こしたことも問題だが、北朝鮮では最高指導者の指示に背いたり、その権威を傷つけたりしたら政治的な事件として扱われるからだ。
(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命)また、女性労働者を死なせたこともさることながら、女性を工事に動員した行為そのものが問題になる可能性が高いというのが情報筋の見立てだ。しかし、労働者の安全や建物の質を軽視する北朝鮮版やっつけ工事「速度戦」や、安全設備の不備などの責任は問われないようだ。
(参考記事:金正恩氏の背後に「死亡事故を予感」させる恐怖写真)高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。