よりよい生活を求めて国境の川を渡って中国に向かった北朝鮮女性が、人身売買の餌食になる事例は枚挙に暇がない。

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中国政府は、脱北者を発見し次第逮捕し、北朝鮮に強制送還するため、摘発を恐れ多くの脱北女性が身を潜めて暮らしている。これに対しては、米議会の中国問題に関する連邦議会・行政府委員会(CECC)が、北朝鮮女性の人身売買を助長している中国政府機関や個人に対し制裁措置を取ることを勧告するなど、国際的な非難も高まっている。

犯罪者たちは、このように孤立した女性たちをターゲットにしている。その魔の手は、北朝鮮国内の女性にも及んでいる。

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北朝鮮事情に精通した中国のデイリーNK情報筋によると、両江道(リャンガンド)に住んでいた少女は、何らかの理由で川を渡って中国に行こうとしたところで、人身売買団に捕まってしまった。

人身売買団は家族に電話をかけ「1万元(約16万3000円)を払わなければ、娘を中国で売り飛ばす」と脅迫してきたという。身代金は一般庶民には到底払えない額であることから、情報筋は人身売買団が、少女が経済的に余裕がある家の出で、脱北しようとしていたことを事前に察知、当初から身代金目的で拉致したものと見ている。

その後の顛末について情報筋は明らかにしていないが、結局家族は身代金を払わざるを得ないだろう。脱北は、金正恩党委員長が「射殺せよ」と命じるほどの重大犯罪扱いで、家族が保安署(警察署)に届け出れば、むしろ被害者である少女とその家族が処罰を受けてしまうからだ。

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また、運良く脱北に成功しても待ち受けているのは、監禁、拉致、強制的な性産業の従事、強制結婚などのリスクだ。

(参考記事:「中国人の男は一列に並んだ私たちを選んだ」北朝鮮女性、人身売買被害の証言

逮捕され北朝鮮に強制送還された女性たちを待ち構えているのは、拷問、強制堕胎、性暴力だ。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)が最近発表した、北朝鮮における女性に対する性暴力の実態をまとめた報告書は、拘禁施設で脱北後に強制送還された女性に対する性暴力の実態について最も多くのページを割いて伝えている。

(参考記事:「私たちは性的なおもちゃ」暴露された金正恩時代の性暴力

別の情報筋によると、先月末に咸鏡北道(ハムギョンブクト)に住む女性が複数のブローカーに「中国で行方不明になった娘を探して欲しい」と依頼した。この女性は3年前に脱北したが、人身売買の犠牲となり、中国人男性に売られてしまい、吉林省の某所で暮らしてきた。親子は電話で連絡を取り続けてきたが、突然電話が繋がらなくなったとのことだ。

(参考記事:金正恩の「女性虐待」収容所を見逃した韓国とアメリカ

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記