緊張状態が続いていた朝鮮半島情勢は、今年に入り緩和に転じたが、北朝鮮国内では一般国民を動員した軍事訓練は続けられている。今月に入ってからは、大規模な防空訓練も行われた。

対航空退避訓練、つまり防空訓練が行われたのは、北部山間地の両江道(リャンガンド)だ。現地のデイリーNK内部情報筋によると、道の保安局(日本の県警本部に当たる)主導により、今月19日、20日の両日にわたって大規模な訓練が実施された。

防空訓練は毎年2回行われることになっており、両江道では8月または9月に下半期の訓練が行われるのが通例だった。しかし、今年は南北首脳会談が行われ、その最終日に金正恩党委員長と文在寅大統領が道内にある白頭山(ペクトゥサン)を訪れることになったため、10月に延期となった。

別の情報筋も、保安局の指導員の話として「南朝鮮(韓国)の大統領一行が白頭山を訪れるので訓練が延期された」と伝えた。それを聞いた住民は「今年は訓練なしだ」とぬか喜びしていたという。

この防空訓練だが、北朝鮮の人々にとっては非常に面倒なものだ。

訓練は、原則としてすべての住民の参加が義務付けられている。

午前8時に訓練が始まると、有線ラジオの「3放送」が、非常時の対処要領に従い訓練に参加するように呼びかけを行う。民兵組織の労農赤衛隊と赤い青年近衛隊が軍服に着替え、敵軍の空襲を想定し、定められた陣地へ向かう。老人、女性、子どもは避難所に入り、訓練が終わるまで待機する。訓練中は一切の移動が禁じられる。商売などもってのほかだ。

道庁所在地の恵山(ヘサン)では、「訓練中にはアリ1匹たりとも通行させてはならない」との指示が下され、厳戒態勢が敷かれた。軍の農場に所属する農民は、収穫を1日早く終えて、訓練に参加するよう指示された。これが午後6時まで続けられる。

訓練が始まると、携帯電話まで遮断されるもようだ。

「複数の人が平壌や清津(チョンジン)に携帯電話で電話をかけたがつながらなかった。折返しもなかった」(情報筋)

訓練期間中に家を留守にするため、空き巣が横行する。保安署は、老人に家に残って町内でパトロールを行わせる。これは防寒対策でもあるようだ。

「現地では10月になれば寒くなるので、洞事務所(末端の行政機関)は、老人と子どもは暖房のある避難所に避難させた」(情報筋)

このような訓練は、内部の結束を高めるために行われてきたが、経済活動が一切できなくなることもあって、不満の声が高い。

(参考記事:北朝鮮国民「防空訓練で商売もできない」と不満

一方で、これ幸いと防空訓練を休暇代わりに使う人もいる。避難所では特にやることがないため、提供される食事を食べながらごろごろして過ごす。

焼肉パーティーをしたり、避難所のそばでカネになる薬草を摘んだり、訓練に臨む態度は不真面目そのものだ。中には、ワイロを払って訓練をサボり、遊びに行く人すらいるという。

(参考記事:戦争訓練中に「焼肉パーティー」…北朝鮮国民のユルい現実

不真面目なのは、軍事境界線の南側の韓国も同じだ。

韓国にも民防衛訓練と呼ばれるものがあり、兵役を終えた人は予備役として訓練に参加することが義務付けられているが、韓国のハンギョレ新聞によると、2013年からの5年間で訓練をサボった人は延べ17万3222人に達し、その数は増加傾向にある。

教育召集通知書という訓練への参加を知らせる書類を受け取らず、「知らなかったから行けなかった」と言い訳して、不参加による罰金を払わない人が14万5860人に達した。

一方で、市街地で一般市民が参加する防空訓練も行われている。かつて、毎月15日の午後2時から行われ、空襲警報が発令されると、車を止めて建物内や地下に避難するというものだ。今では年2回に減らされたが、真面目に取り組まない人が多く、それに対する批判が一時期の韓国メディアの定番ネタだったほどだ。

韓国で防空訓練に代わって頻繁に行われるようになったのが、火災、台風、そして地震に備えた避難訓練だ。韓国では昨年と一昨年、マグニチュード5クラスの地震が起きて被害が出ている。それを受けてソウル市では、年に2回の地震訓練を行っている。一方で、8月と11月に予定していた防空訓練は実施しないことになった。