世界には、徴税に頼らず成り立っている国が存在する。例えば、サウジアラビア、クウェート、ブルネイなどは、豊富に存在する石油、天然ガスから得た収入を予算に充当するため、国民から税金を徴収しなくとも国家運営が可能だ。しかし、税金の制度そのものが存在しないわけではない。そんな国は北朝鮮がただひとつだろう。
故金日成主席は1974年2月、朝鮮労働党中央委員会第5期第8次全員会議において、古い社会の遺物である税金制度を完全になくすことについて討議、決定することを指示した。それを受けて最高人民会議は同年3月、「税金制度を完全になくすことについて」との法令を発表し、4月1日に世界初の税金のない国になったことを宣言した。この日は「税金制度廃止の日」に定められている。
税金を徴収しない代わり、旧共産圏諸国などからの援助を国家予算に当てていた。援助がなくなった今でも、「遺訓政治」が国是となっている北朝鮮では金日成氏が提唱した税金制度の廃止を撤回するわけにはいかない。そこで北朝鮮が編み出したのは、様々な名目で国民に金品を供出させるという手法だ。
70回目の建国記念日(9月9日)、南北首脳会談(9月18日〜20日)という国家的ビッグイベントが目白押しだった先月の北朝鮮。国民は政治行事への動員、行事に必要な金品の供出など、様々な負担を強いられた。
(参考記事:少北朝鮮の中高生「残酷な夏休み」…少女搾取に上納金も)一息つく暇もなく次のビッグイベントが迫っている。73回目となる朝鮮労働党の創立記念日(今月10日)だ。咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋によると、当局はこうしたイベントの予算づくりのため、国民に犬や兎などの「動物の皮」の供出を求めている。それも今年だけではなく、数十年前から続く「年中行事」だ。集めたものは、外貨稼ぎのために輸出され、その外貨で国家行事に必要な物品を輸入する。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面当局は表向き「買い取り」を謳っているが、供出したところで金銭的な見返りは一切ない。「人が満足に食べるのもやっとの状況なのに、犬を飼おうという人は少ない」(情報筋)というのがかの国の現実だ。結局は動物の皮の代わりに現金を納めることとなる。つまり名目は「犬の皮」であっても、現金を納める事実上の税金だということだ。
犬の皮1枚はコメ4キロと計算するので、2万北朝鮮ウォン(約260円)となる。そして、徴収は職場や学校、人民班(町内会)毎に行うため、結局のとこ「職場(学校)+家庭」で4万北朝鮮ウォン(約520円)以上を上納することになる。2014年までは1万北朝鮮ウォン(約130円)だったが、コメ価格に変動はないのに2倍になっている。
両江道(リャンガンド)の情報筋によると、工場や機関で働く人は咸鏡北道と同じ4万北朝鮮ウォンを払わされるが、農場では1人あたり中国人民元で24元(約400円)だという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「毎朝、人民班長(町内会長)が町内を回り『犬の皮を納めろ』とガミガミ言う。貧しくて出そうにも出せない人は、班長に催促されるのが嫌で、声が聞こえるやいなや外出してしまう」(情報筋)
だからといって免除してもらえるわけではなく、人民班長は夜中でもやってきて「さっさと納めろ」と騒ぎ立てる。結局は借金をして納めるしかないのだ。
(参考記事:ある北朝鮮女性の悲劇…金正恩政権下で「ヤミ金」がまん延)犬の皮の供出が終わると、今度は「堆肥戦闘」こと人糞集めが北朝鮮国民を苦しめる。翌年の農作業に必要な肥料を作るためのものだが、盗難が頻発するため、寝ずの番で人糞を守る苦行が強いられるのだ。
(参考記事:過酷な「人糞集め」に苦しむ北朝鮮国民を襲うもうひとつの災い)