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北朝鮮空軍のパイロットはかつて、文字通り世界を股にかけて活躍し、祖国の勇名をとどろかせた。1960年代にはベトナムで米空軍と対決し、1970年代には中東の空でイスラエル空軍と死闘を演じたのである。

(参考記事:米軍機26機を撃墜した「北の戦闘機乗りたち」

そんな空軍パイロットたちが、エリートの中のエリートとして遇されたのは言うまでもない。ちなみに、北朝鮮空軍創設の功労者である故リ・ファル中将は、旧日本軍の出身とされている。

(参考記事:北朝鮮空軍創立の主役リ・ファルは、日本の操縦士出身

しかし、こうしたエピソードも今は昔の話である。米政府系のラジオ・フリー・アジアは1日、空軍パイロットをはじめとする朝鮮人民軍(北朝鮮軍)高級将校たちの苦境を伝えた。

最近、中国を訪問したある平壌市民はRFAに対し、次のように語っている。

「人民軍の上佐(大佐と中佐の間)の階級章を付けている息子を除隊させるために、高位幹部に1500米ドルを渡した。平壌市内にそこそこの家を買えるほどの大金だが、将校を除隊させるにはかなりのカネがかかる」

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そもそもどうして、高級将校たちはそこまでして軍を離れたいのか。

「人民軍将校の権威と待遇が、金日成・金正日時代と比べ大幅に低下している。金正恩が登場し、権力構造が『先軍政治』から党中心に移行したためだ。特に高級将校は、待遇がマシであるわけでもないのに、義務と制約だけが増している。生計を維持するために、市場で商売することすらできない」

北朝鮮軍は現在、将兵に対してまともな給料を払えていない。それどころか末端兵士のための食糧の横流しが頻発。部隊内では飢えが常態化し、その他の腐敗も横行している。

(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為

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エリート意識の高い将校たちは、そのような現状に精神的にも耐えられない部分があるのではないか。

一方、平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、次のように話す。

「同じ将校でも、陸軍ならば辞めるのは比較的簡単だ。空軍や海軍は良く訓練された将校の数が絶対的に不足しているので、なかなか辞めさせてもらえないのだ。特に空軍のパイロットは、年を取っていても辞められない。航空燃料が不足しているために、これから優秀なパイロットを育てることができないからだ」

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金正恩氏は「ヒコーキ好き」として知られるが、それでいてこの有様だ。北朝鮮空軍がかつての栄光を取り戻す日は、永遠に来ないのかもしれない。

(参考記事:第4次中東戦争が勃発、北朝鮮空軍とイスラエルF4戦闘機の死闘

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記