朝鮮半島は24日、「秋夕」(旧暦8月15日)を迎えた。かつては家族一同が先祖の祭壇の前に介し、伝統的な儀礼を行ったものだが、最近ではその様子も多様化している。
韓国では、大都市に住む子どもが親のいる故郷に帰省するのではなく、逆に親が大都市に行って子どもの家族と一緒に過ごすケースもある。帰省ラッシュを避けるためのアイデアだ。秋夕の連休を利用して海外で過ごす人も少なくない。
北朝鮮では、長距離移動に必要な「旅行証」を得て帰省するのが一般的だったが、今年は様子が異なる。先日開催された南北首脳会談により、長距離移動が厳しく規制された関係で、旅行証をもらえない人が続出した模様だ。
(参考記事:南北首脳会談が止めた北朝鮮国民の「足」…経済にも影響)検問所の人員とワイロで通じているタクシー業者に頼ったり、検問所ブローカーの手を借りたりすれば、旅行証なしでもスイスイと帰省できるが、その日暮らしをしている庶民にとっては、気軽に利用できるほど安価なものではない。
(参考記事:北朝鮮の「検問所」が「料金所」に変身した裏事情)そこで、北朝鮮の人々が考えたのが「家族が動くと移動費がかかるので、いっそそのカネを送ろう」ということだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋によると、ある人が咸鏡北道(ハムギョンブクト)に住む兄の元に中国人民元で100元(約1650円)を送金した。送金はバスの車掌を介して行われるが、手数料は送金額1割だ。
「いかに生活が苦しくても秋夕の準備は欠かせない。1ヶ月前ほど前から準備を始める人も少なくなかった。お供えするご飯は新米にするなど、先祖を敬う気持ちは忘れない」(情報筋)
一方、経済的に余裕のある人々の間では、こんな風潮が広がっている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)の平安南道(ピョンアンナムド)の情報筋によると、墓の周辺の除草を代行する仕事が人気を集めているという。
昨年までは、トンジュ(金主、新興富裕層)が、日雇い労働者にいくらかの手間賃を渡して除草を頼んでいたが、今年からは専門の業者が登場した。朝鮮の伝統的な墓は土饅頭なので、1年も経つと雑草だらけになる。除草はかなりの手間だが、それを代行してくれるというのだ。
「平城(ピョンソン)から平原(ピョンウォン)に抜ける峠道には、『草取りします』というプラカードを持った男性が立っている。彼らが専門の除草業者だ。距離に関係なくどこにでも行って雑草を抜き、お墓の周辺をきれいに整理してくれるので、トンジュから信頼されている」(情報筋)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面料金は面積に応じて1万北朝鮮ウォン(約130円)から10万北朝鮮ウォン(約1300円)までの間だ。
別の情報筋によると、以前は忙しくて墓の掃除や草取りができない場合には、近所の人にお願いしてお礼に酒や食事を振る舞うものだったが、市場経済化が進んだ今では手間賃を払うようになったという。
「当局は市場経済化の進行を防ぐために『お互いが助け合う集団主義精神を具現しよう』などと強調しているが、そんな思想教育が通じる時代はとっくに過ぎた。商売だけが生きる道と固く信じるようになった北朝鮮の人々の頭の中では、首領(最高指導者)より先祖をきちんと祀ってこそ運気が上昇するとの認識が強まっている。貧しい人でもカネを出して先祖にお供え物をし、『商売繁盛』『子孫繁栄』をお祈りする」(情報筋)
もちろん、カネ一辺倒というわけではない。前述のデイリーNK内部情報筋は、ある協同農場では、所属する農民に秋夕の贈り物としてコメ1キロが、工場では従業員に酒1本が配られたと伝えた。これは、農民や労働者を思う現場幹部たちの気持ちから出た、心のこもった贈り物だとのことだ。