韓国の文在寅大統領は18日午前、北朝鮮の金正恩党委員長と今年3回目となる首脳会談を行うため、専用機で平壌に到着した。空港では金正恩氏と李雪主(リ・ソルチュ)夫人が大統領夫妻を出迎えたほか、金正恩氏の妹・金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第1副部長も姿を見せ、儀典と警護を直接指揮する様子がうかがえた。

金与正氏は、普通の人と同じトイレを使えないなど、特殊な事情のある金正恩氏の動線を管理してきたと言われる。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

また、金与正氏は1回目と2回目の首脳会談で兄の補佐役となったが、今回はいっそう重要な役回りを担っている可能性がある。

金正恩氏と金与正氏の関係については、4月初めに芸術団を率いて北朝鮮を訪問し、金正恩党委員長といっしょに芸術公演を鑑賞した韓国の都鐘煥(ト・ジョンファン)文化体育観光相が、面白いことを言っている。

都氏はこのとき、2時間半にわたり金正恩氏と同席し、彼と側近らとのやり取りをつぶさに観察した。そしてそのときのことを、17日に行われた外信との懇談会で、次のように証言したのだ。

「公演を見ながら指示すべきことが生じると、随行員の中でも、金副部長(金与正氏)を呼ぶことが多かった。そうやって指示を与えながら、話し合う姿を直接見ました」

金与正氏は2015年初め、左手薬指に指輪をはめている写真が確認され、この前後に結婚したと見られている。ということは、結婚を最終的に許可したのは父・金正日総書記(2011年12月死亡)ではなく、兄の金正恩氏だったはずだ。北朝鮮の公式報道に登場する兄妹の姿を見る限りでは、金与正氏は金正恩氏に強い信頼を寄せているように見受けられる。

また、金正恩氏が妹を大事にしてきたことはかなり前から言われていた。大事にし過ぎて、彼女の友人を大量に失踪させる「事件」まで起こしたほどだ。

(参考記事:金正恩氏実妹・与正氏の同級生がナゾの集団失踪

母親が日本の大阪出身で、北朝鮮国内に頼りになる血族がほとんどいない金正恩氏にとって、兄妹の絆を強めることは何より大事なことなのかもしれない。

(参考記事:金正恩と大阪を結ぶ奇しき血脈

そして今や、2人は国際社会注視の中、歴史的な外交舞台で経験を積んでいる。男尊女卑の気風の強い北朝鮮においても、金正日氏の妹・金慶喜(キム・ギョンヒ)氏や、彼の次女で金正恩氏の異母姉に当たる金雪松(キム・ソルソン)氏が政治的に重要な役割を担った事例がある。

(参考記事:金正恩氏の「美貌の姉」の素顔…画像を世界初公開

今後の北朝鮮において、金与正氏がどこまで重要なポジションを占めていくか、極めて興味深いものがある。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記