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現在の北朝鮮政府の前身にあたる北朝鮮臨時人民委員会は1946年8月10日、決定58号「産業、交通、運輸、逓信、銀行などの国有化についての法令」を公表し、全事業所の9割以上を国有化した。同年12月には地下資源、山林、水域の国有化、1954年から1958年にかけては農林水産業と商工業の協同組合化が行われた。これにより、北朝鮮のすべての生産手段が国有化された。

それから60数年が経った今、事業所の再私有化が進み、企業設立がブームになっていると、平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。

大消費地の首都・平壌、そして交通と流通の要衝・平城(ピョンソン)は、港湾や炭鉱地帯にも近く、様々な企業が設立されている。2016年ごろからは洗車場、ガソリンスタンド、アパレル工場、軽油精製所などの企業が雨後の竹の子のようにできて、最近でも3つの企業ができたと情報筋は伝えた。

(参考記事:経済制裁をチャンスに変える…北朝鮮「草の根企業」奮闘記

個人経営の企業の一般的な月給は100ドル(約1万1000円)で、コメも支給されるとあって、国営企業に勤めていた人々が転職しようとしている。国営企業の一般的な月給は4000北朝鮮ウォン、公務員や教員は最高で1万北朝鮮ウォンに過ぎず、平均的な4人家族の1ヶ月の生活費の50万北朝鮮ウォン(約6500円)は到底賄えない。もらっても意味がないため、そもそも受け取ろうとすらしない人も多いという。

所属する国営企業の生産が止まっているとしても、出勤はしなければならない。職場に仕事がなくとも国営企業や国の機関に所属していなければ「無職」扱いとなり、処罰の対象となるからだ。

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韓国の北朝鮮大学院大学の梁文秀(ヤン・ムンス)教授と韓国海洋水産開発院のユン・インジュ副研究委員は、論文「北朝鮮企業の事実上の私有化(2016)」で、2005年から2015年にかけて脱北して間もない人597人を対象に、事業所の私有化の状況について聞き取り調査を行った。

最も私有化の進んだジャンルである食堂は55.5%(2005年)、58.0%(2009年)、64.7%(2015年)と、私有化率が徐々に高まり、全体の3分の2が民営だ。

商店はは42.2%→51.3%→57.3%、個人サービス業(銭湯、理髪店、カラオケ、ビリヤードなど)は41.5%→46.7%→55.3%、水産基地、鉱山を含む外貨稼ぎ事業所は32.9%→41.0%→45.4%となっている。2005年、2009年、2015年と年を経るにつれ私有化率が高まっているのだ。

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一方、製造業は私有化が最も遅れている分野で、2015年の時点でも重工業、軽工業ともに2割台に留まっている。

北朝鮮の企業所法11条は、すべての企業は内閣、中央労働行政指導機関、道、直轄市、区域、郡の人民委員会(役所)に所属することになっている。また、刑法114条(個人の企業、営業罪)は、個人が企業活動で多額の利益を得た場合は1年以下の労働鍛錬刑に処すると定めている。つまり、個人の企業活動そのものが違法行為なのだ。

そのため、企業を設立しようとする人は、国営企業の幹部と協業する。工場側が、建物や設備の一部を企業を運営しようとするトンジュ(金主、新興富裕層)に貸し出し、カネを受け取るという工場レンタル業だ。こうすれば、外から見ただけでは誰が運営しているのかわからない。

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政府は2000年前後から国営企業に対して予算や資材の供給をやめ、「自力更生」することを強く求めるようになった。そのため運営資金を自力調達することを迫られた国営企業は、このようなビジネスに乗り出すようになった。利益の一部でコメを購入し、労働者に配れば、幹部の評判も上がる。

また、国の機関に利益の一部を納めることを条件に、機関の名前を借りて営業する形態もある。

トンジュは、国営企業の幹部と組んで個人企業を立ち上げたとしても、どこかに所属していなければならないので、できるだけ力のある単位(機関や企業)に籍を置こうとする。人民武力省、人民保安省、国家保衛省の傘下の企業所に籍を置けば、輸出入許可権を取得するのも簡単になるので人気があるようだ。もちろん、それにはコネが必要となる。

当局は、これらの企業形態について認識はしているものの、特に問題にしようとはしていない。

韓国統一研究院の「北朝鮮企業の運営実態と支配構造(2016)」によると、北朝鮮の幹部は、企業所が国への上納金、思想教育、勤労動員などの機能を担当させられることに大きな負担を感じていることを認識しており、国が要求する上納金と勤労動員さえ問題なく行われるならば、個人企業所を問題にすることはないという。

さらに当局は、「今や個人でも能力と資金があり、国の助けになるのなら、法的制裁を加えるのではなく、活性化させよ」との指示を下している。

「(企業は)国の生産計画に基づいて生産を行うのではなく、行政機関や司法機関など企業運営に関連して契約を交わした役所に報告するだけで、運営そのものは100%自由に行っている」と情報筋は語った。