北朝鮮が建国70周年(9月9日)に合わせ、お得意のマスゲームを準備している。マスゲームは、2013年を最後に行われなくなっていたが、今年から再開にすることとなった。

マスゲームは北朝鮮にとって、重要な観光商品だ。中国・北京にある北朝鮮専門旅行会社の最大手と言われるコリョツアーは、マスゲームツアー専用ページを立ち上げ、売り込みに乗り出している。

3泊4日で800ユーロ(約10万5000円)の比較的安いツアーから、マスゲームや平壌市内観光に加え、高原地帯にありリゾート地として有望と言われている赴戦湖(プジョンホ)など、国内の観光地を22日かけて回るメガツアー(4000ユーロ、約52万6000円)に至るまで、様々なツアーが用意されている。同社は、建国記念日とあって「軍事パレードも見られるかもしれない」と売り込んでいる。

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高い料金を取るだけあって、準備に取り組む北朝鮮当局の気合はハンパではない。問題は、幼い児童・学生らが、そのしわ寄せを受けているということだ。

平壌のデイリーNK内部情報筋が伝えたところによると、「今回のマスゲームには平壌市内、特に中心部にある小・中・高校の生徒のほとんどが動員されている。そのほかに様々な工場で働く若者たち、地方の学生らも動員されている」という。

マスゲームに動員された人々の境遇は悲惨だ。練習開始から公演終了まで4~5カ月間、学校もそっちのけで練習に参加させられる。長時間にわたる練習では、トイレも自由に行けない。この点、自身もトイレで不便な思いをしている金正恩党委員長ならわかっているはずだ。

(参考記事:金正恩氏が一般人と同じトイレを使えない訳

猛暑の中、炎天下で延々と行われる練習がどれだけ辛いか想像してみてほしい。

特に学校の生徒たちは、夏休みが丸々つぶれる。もともと北朝鮮の学生たちにとって、夏休みは必ずしも楽しいばかりのものではない。学校や国家から、様々な課題を押し付けられたり、組織生活や思想の総括を強いられたりするからだ。

また経済状況の苦しい家庭の子どもたちの多くは、輸出向けの軽工業品を作る工場で、手作業に従事する。工場の中には、「女工哀歌」並みの少女搾取を行っている現場もある。

(参考記事:北朝鮮企業が少女たちの「やわらかい皮膚」に目をつけた理由

北朝鮮でもすでに夏休みは終わっているが、マスゲーム動員の「責め苦」は続いている。金正恩氏は「愛民指導者」として自身をアピールしているが、本当にそうなりたいなら、もう2度とマスゲームに子どもたちを動員しないことだ。

(参考記事:北朝鮮の留学生が怯える「恐怖の夏休み」…家族と生き別れの例も

高英起(コウ・ヨンギ)

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1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記