北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は26日、米国が非核化を巡る朝米対話が失敗した場合に備え「危険極まりない軍事的動き」を見せていると非難する論評を掲載した。
トランプ米大統領がポンペオ国務長官の訪朝を中止させた直後だけに、まずは「反撃」の第一波と見られる。
論評は、日本に駐屯するグリーンベレーなど米軍特殊部隊が、フィリピンなどを舞台に北朝鮮を想定した「長距離浸透訓練」を行っていることが暴露されたと指摘。「ようやくもたらされた朝鮮半島の平和と朝米間の対話の雰囲気を曇らし、シンガポール朝米共同声明の履行に水を差すごく挑発的かつ危険極まりない軍事的動き」だと非難した。
実際のところ、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)は米軍のこうした動きに、本気で神経を尖らせているのではないか。装備する通常兵器の大幅な劣化、そして性的虐待や窃盗の横行などによる軍紀びん乱で、軍はとても戦争どころでないのがホンネだろう。
(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為)虎の子の核戦力を放棄してしまったら、米韓と渡り合うなどとうてい無理なのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面また、北朝鮮は4月の南北首脳会談直後から、軍事境界線付近に駐屯させていた兵力と装備を大規模に後退させているとの情報もある。金正恩党委員長が朝鮮戦争の終結宣言を早期に実現することにこだわっているのは、自分たちの側だけに「力の空白」が生じることを嫌っているからではないのか。
(参考記事:北朝鮮、軍事境界線一帯の兵力を大規模に後退)ちなみに、前線から引き離されたからと言って、当の将兵たちには必ずしも喜ばしいことではない。前線に配置された将兵は、配給などの面で軍の中でも比較的優遇されている。しかし後方の一般部隊は食糧供給さえ十分に行われず、兵士が栄養失調に陥る例が多くある。
さらに後方の部隊は、軍事訓練や警戒任務に当たるよりも、各種の建設工事に動員されることの方が多い。貧弱な装備と劣悪な労働環境、無理な工期設定で行われる北朝鮮の工事現場では、深刻な死傷事故が多発している。
(参考記事:金正恩氏の背後に「死亡事故を予感」させる恐怖写真)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
北朝鮮軍の場合、戦争の危険が高まらない限り、後方よりは最前線にいた方が安全な面があるわけだ。
いずれにせよ、最近の米国の姿勢に、金正恩氏は相当なストレスを感じているだろう。展開次第では、北朝鮮が反撃の「第2波」を繰り出す可能性は小さくない。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。